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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の温もり(11)

 野江は一つ息を吐いて、ゆっくりと口にした。

「なぜ、ここにいるのですか?紅」

野江が仕える赤の色神。姿を見ずとも、誰なのか分かる。布団の中から野江の顔の横に顔を出してきた彼女は、悪戯めいて笑った。

「良く分かったな」

うつ伏せの紅は野江の顔のすぐ横に、ひょっこりと顔を出してきた。もう、二十歳になるというのに、今の紅はまるで子供のようだった。紅の長い黒髪はほどかれている。首元はすっきりとしている。長襦袢がないということは、薄手の寝間着のまま出てきたということになる。同じ女として、何かを言いたい気持ちになったが、止めた。紅は裏道から来たのだ。その道は、紅しか通れない。もしかしたら、赤影の道かもしれないが、いたところで赤影だけだ。紅にとっては自室も同じだ。この自由な紅を些細なことで責め立てたくはない。紅は紅らしいのが良い。男どもに会わないのであれば、何も気にする必要もない。

「なぜ、ここにいるのですか?」

野江は天井を見つめたまま、再び紅に尋ねた。紅は赤の色神だ。その赤の色神が、そこにいるのが不思議だった。元来、紅は自由な気質だ。神出鬼没で、突然姿を見せては野江を驚かせる。しかし、こんな夜半に、野江の布団の中に現れるということは只事ではない。紅は常識をわきまえている人なのだから。

「怒らないでくれよ」

言うと紅は布団に潜り込んでしまった。布団の下で、紅の手は野江の手を握っている。その手は熱を持ったように熱かった。布団の下にもぐっても、紅の黒髪は隠しきれていない。野江は、無性に紅が愛おしく感じた。紅がなぜ、ここに来たのか。その理由は分からない。しかし、握られた手の熱と強さが野江の怒る気持ちを削がせ、理由を詮索する野暮な心も落ち着かせてしまったのだ。

「怒ってなどいなくてよ」

野江が言うと、紅は勢いよく布団から顔を出した。

「怒っていないのか?」

野江は紅に仕える身だ。心から責めることはないし、嫌うこともない。いつも怒っているのは、紅の身を案じてのことだ。紅はまるで子供のように無邪気に微笑んだ。昼間に柴を一喝した紅とは別人のようであった。今の紅はまるで子供で、今の紅からは何の威圧感も感じられないのだ。

「こんな真夜中に、どうしたのかしら?」

野江は紅に尋ねた。もしかしたら、義藤が何かを言ったのかもしれない。義藤は時に腹立たしいほどに気が利くのだ。紅は何も言わずに押し黙っていた。

「義藤が何か言ったのかしら?」

野江が尋ねると、紅は困惑したように首をかしげた。

「義藤が?」

その反応を見て、野江は思い過ごしであったことを知った。義藤は出来た男だ。口は災いの元だということを知っている。

「いえ、何でもないのよ」

野江が言うと、紅は子猫のように野江の腕に頬をすり寄せた。

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