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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の温もり(9)

 脱いだ赤い羽織を適当に広げて枕元に置くと、野江は布団に体を横たえた。だが、せっかく義藤が火のしまで当ててくれたのだと思い出して、再び身を起こすと布団に上に正座をして月明かりの下で羽織を畳んだ。縫い目に合わせて、決められたように畳む。皺にならないような畳み方だ。左手一つで畳むのは難儀なことであったが、出来ないことではない。赤い羽織を纏っていると、赤がいつでも近くにあるように思える。世間の人が触れることが出来ない赤い布だ。火の国では、容易く使うことが出来ない赤い色だ。

 この羽織の重みを忘れてはならない。この羽織は術士の重み。この羽織は戦いの重み。野江は強くなくてはならないのだ。誰もが羨む才に恵まれ、誰もが羨む立場に立ち、誰もが羨む人生を歩んでいる。女として家庭に入ることなく、男と肩を並べて、男に指示をだし、男と戦うことができる。術士でない女性たちも、野江に期待を寄せている。都を歩けば、期待を背負っているような気がする。期待されて、必要とされて、寂しいなど、言っていられない。こんなにも仲間に囲まれているのに、何が寂しいと言うのだ。

 感情があらぶったり、感情に波が立つことは陽緋として相応しくない。期待される陽緋でない。歴代最強の陽緋として称され、陽緋として紅の役に立つことが出来る。陽緋として戦うことが、先代への恩を返すことにつながるのだ。


――あたくしは強くなくちゃいけない。


――あたくしは、強くなければ陽緋じゃない。


 野江は再び体を布団に横たえた。

 堂々巡りの悩みの中、野江は思考の檻に閉じ込められていた。それが苦しくて、逃れるために眠りを求めた。


 痛む傷。痺れる手。野江は早く傷を癒すために、ゆっくりと目を閉じた。心の中で傷つけてしまった柴に謝りながら。



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