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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の温もり(8)


――野江。


兄の声が野江の心に蘇った。

「兄様」

野江は無性に兄に会いたくなった。野江の近くにいてくれた兄だ。

――野江、野江は兄にとって、かけがえのないたった一人の妹だよ。

兄の優しい声が響く。

――下品でも、弱くても、情けなくても、泣いていても、野江は兄の妹だよ。

兄の温かい手が思い出される。

――何があっても、兄は野江の味方だよ。

兄の優しい笑顔が思い出される。

――野江は野江の好きなようにすれば良い。誰から評価されるとか、そんなこと気にせずにね。どんな野江であっても、兄は野江の兄だから。

それは、野江の欲しい言葉。兄はいつも野江が望む言葉を野江にかけてくれていた。兄は野江が何であっても、愛してくれていた。


「会いたい」


野江は兄に会いたかった。なぜなのか。そんなのは簡単だ。


――寂しい


 ふと、野江はそんなことを思った。術士という仕事や役目でなく、鳳上院家の末娘という生まれでなく、あるがままの野江を必要として欲しいのかもしれない。誰かに抱きしめてもらいたい。そんな弱さが野江を襲うのだ。

 仲間に囲まれているのに孤独を感じる。必要とされている野江は、術士の野江。強い野江。弱さを受け入れても、過去から逃げても、野江は何度でも不安に襲われる。二十年前に生き別れた兄。その兄に会いたいのだ。兄から抱きしめてもらいたい。兄は、どんな野江でも受け入れてくれるから。


――寂しい


飾らない野江を必要として欲しい。無力な野江を必要として欲しい。孤独でないのだと、温かさを感じたい。


しかし……


「あたくしは強くならなくちゃいけないのに」

野江は溢れそうになる涙をこらえて、そっと義藤が肩に掛けてくれた羽織を脱いだ。皺ひとつない羽織は、義藤が丁寧に火のしを当てたことが分かる。野江が先代の紅から渡された羽織は破れてしまった。戦いを強要される術士である野江の羽織は、何度も破れてしまう。その度に繕うには限界がある。これは、今の紅が野江に渡してくれた羽織だ。都南よりも丁寧に扱っていると自負している。佐久よりも転ぶことは少ない。けれども、野江の羽織は傷んでいる。その傷みの分だけ、赤い羽織の重みを感じた。


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