表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
559/785

緋色の温もり(6)


 今の紅が無鉄砲に振る舞えるのは、紅の隣に義藤がいるからかもしれない。紅の義藤への信頼はとても大きい。

「義藤、紅を守りなさい」

言ったのは、野江の義藤への信頼だ。

「当然です。俺の世界は紅と出会って変わったのですから」

義藤は何とも優美に微笑んだ。紅と出会って変わったのは、野江も同じだ。先代紅と出会い野江の未来は開け、今の紅と出会い野江は強さを手にした。

「あたくしも同じよ。あたくしも紅と出会って変わったのよ。あたくしは、あの子のために戦うわ」

野江の心にいつも鮮明に蘇る。あの鮮烈な赤色と、計り知れない強さと自信。隠し通された儚さと女性らしさ。重圧の中で平然と振る舞う力。野江の中に大きく存在する。

「同じです。俺も野江も同じです。きっと、柴も同じはずです」

義藤が目を細めて微笑んだ。野江はその微笑みを見て、なんとも言えない気持ちになった。義藤は強い。年下の義藤を見てそう思ってしまうのだ。未だ、負けていないと思っても、未だ負けていないと言い聞かせても、己は必要とされていると思っていても、ふとした時に心に弱さが入り込むのだ。同じ悩みを何度繰り替えせば良いのだろうか。何度悩めば良いのだろか。解決したようでも再び迷いが野江を襲う。

野江の心は迷いの中にある。常に過去が野江を捕えようと追いかけてくるのだ。鳳上院家の末娘として育てられた幼い日の記憶。そして術士でなくなることの不安。術士としての存在価値を失う不安。義藤に抜かされる不安。紅を守れないのではないかという不安。野江の心は不安の中にあって、何度振り切っても追いかけてくる。それが野江の油断となり、影の国の術士「萩」に敗れることにつながったのに、野江は何度でも不安に追いつめられる。紅が声をかけてくれて、一時は気にしなくなっても、野江は再び野江は追いつめられるのだろう。もしかすると、今回過去を語ったところで何も変わらないのかもしれない。野江はいつでも不安の中にいるのだから。どうすれば、野江は人として成長することが出来るのか、どうすれば野江は強くなれるのか、何も恐れない大人になれるのか、野江には分からない。きっと、それが野江の弱さだ。先代の紅が、先代の赤丸が、遠次が、柴が、鶴巳が、そして義藤までもが野江を励ましてくれるのに、野江はいつも自分を卑下してしまう。愚かなことだと、その度に言い聞かせているのに、野江の心に風が吹き込む。歴代最強の陽緋と称されても、結局はこの程度のものだ。堂々巡りの悩みだ。

「本当にあたくしは……」

思わず野江は口にした。この弱さと決別したくて、野江はいつも己の心と戦っているのに、心に風が吹き込むのだから。

「どうかしましたか?」

義藤が野江に尋ねた。

「いえ、なんでもないのよ」

野江は己の心に囚われている。結局、答えなどないのだ。いつも襲ってくる不安と孤独と戦い続けるしかないのだ。自分という人が嫌になる。嫌になって仕方ない。野江は陽緋として、術士たちの頂点に立つ。多くの術士が野江を尊敬し、頭を下げる。尊敬されても、野江は自信が持てないのだ。まるで、必死に虚勢を張っている無力な兵士のようであった。堂々巡りの悩みと、これから付き合っていかなくてはならないのだろう。嫌な自分を受け入れなくてはならないのだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ