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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の温もり(5)

野江は義藤を見つめた。義藤は誰よりも強く、誰よりも優しい。

「俺は、前へ進みます。それだけです」

「ありがとう、義藤」

野江は三角巾で吊ったままの、感覚のない右腕をさすった。

「柴のことは、気にしなくて大丈夫だと思います。年の功というものは真実です。柴が長い年月生きて、俺たちを導いてくれているのは事実です。俺にとって、野江たちが道標なようにです。ですから、気にしなくて大丈夫だと思います。柴の大きさが俺たちの道標なのですから」

義藤は何とも言えない笑みを野江に浮かべた。

――野江、何も心配しなくていい。ただ、野江は前だけを見ていれば良いんだよ。

不思議だ。野江の脳裏に先代の声が響いた。不思議だった。そこにいるのは、義藤なのに、義藤と先代紅が重なって見えるのだ。あの、ゆっくりとした雰囲気を持つ先代を思い出すのだ。几帳面な義藤とは似ていないのに。先代はどこか抜けたところがあった。とても知的で、とても穏やかなのに、どこか抜けたところがあるのだ。隙があるともいえる。その隙さえ、彼の魅力だった。几帳面でぬけの無い義藤とは似ていない。なのに、どこか重なって見えた。

「不思議ね」

野江が口にすると、義藤が首をかしげた。

「どうかしましたか?」

問い返す義藤に野江は首を横に振った。

「いいえ、なんでもないのよ。あたくしの独り言よ」

野江は首を横に振った。先代は命を落とした。先代は、今の紅よりも戦いに適していなかった。激高することもあっただろうが、基本的には穏やかな人だったのだ。優しい男だった。どこか、達観した視点を持っていたが、激しさはない。あるのは、包み込むような優しさだけだ。今の紅とは対照的だ。今の紅は、目を離せば前線で戦い無茶をする。己の命を軽んじるような愚かさはないが、無鉄砲さはある。いつも野江をやきもきさせる。


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