緋色の温もり(3)
鶴巳が傑作と呼べるからくり「空挺丸」を作ったことで、地方の安定につながった。不信な動きがあれば、いつでも中央の術士が確認に行くことが出来る。火の国は小さな島国であるが、馬を飛ばしても端々まで移動するには数日がかかる。空挺丸を使用するには、紅の石の強大な力が必要であるが、現在、使用できる術士は多い。野江、佐久、そして短距離であれば義藤や柴も可能だろう。今後、秋幸も使用できるようになるはずだ。
それでも、地方の端々まで目を向けることは難しい。地方に派遣されている下緋が襲撃されても、中央の紅が危機を知るには紅の石の使用で想像するしかない。だからこそ、柴の果たす役割は大きい。柴の役割は加工にとどまらない。紅城に加工師はそれなりに存在する。一色を見ることが出来なくても、ある程度感じることが出来れば、加工は可能なのだ。それでも柴の加工が必要とされるのは、半端な加工師が加工した石は、野江や佐久、義藤の力に耐えられないのだ。だからと言って、加工されていない石を使用することも出来ない。加工されていない石は強度に欠けるのだから。柴が地方を回り、地方の情勢を観察する。柴一人で解決できる事案も多い。
柴が戦うとその力に驚かされる。とにもかくにも、柴は強い存在なのだから。二年前、柴がいたから、都南も佐久も紅城に残ったのだ。
「本当に、あたくしという人は……」
野江は布団の上に身を起こして、開かれた障子の隙間から外を見た。外廊下に面した中庭では行燈が灯されている。夏の近づく時期、少し暑さのある風が部屋の中へ吹き込んでくる。