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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
554/785

緋色の温もり(1)


 野江はつくづく自分が嫌になった。


野江は柴を追いつめた。柴を傷つけた。柴を孤立させ、柴を苦しめた。そんな自分が、つくづく嫌になったのだ。野江にとって、柴はとても大きな存在だった。柴という人が鳳上院家に囚われていた野江を迎えに来てくれた時、野江は世界が変じたのを知った。望んで術士になっても、才能に恵まれた野江は厳しい訓練を受けることとなり、将来を期待された野江の訓練は尚のこと厳しい物だった。どんな時も、柴は野江を支えてくれていたのだ。

 そんな柴を追い込んだ、己の言葉が野江の中で反芻されていた。


――あたくしは、紅を、この火の国を守るのに必要なことを知りたいだけよ


 誰にでも過去がある。柴には柴の過去がある。その過去がどのような物なのか、入りこむのはとても失礼なことで、それは否定されるものではない。自分の苦労話と他人の苦労話を比較することも出来ない。紅城の赤の仲間たちは皆秘密を抱えている。野江が鳳上院家の生まれであることを隠していように、都南も佐久も義藤も何かを隠している。それは、柴も同じだ。優れた才に恵まれた術士は皆、秘密を抱えているのではないかと思うほど、誰もが秘密を抱えている。それも踏み入れることが出来ないような秘密だ。他人からしたら、些細な秘密かもしれないが、当人にとっては、とても重要な秘密だったりするからだ。結局、他人の悩みなど、どれもくだらないものに思えるのだから。赤の仲間たちは皆、それを知っている。だから、秘密を口にしたりしないし、尋ねたりしない。

だから野江は思うのだ。柴に対して悪いことをしたと。

 柴が何かの秘密を抱えていることは事実だが、柴が紅を裏切るはずもない。野江は少しむきになったのだ。むきになって、柴を追いつめた。野江自身の過去を話したのは、野江の弱さを披露し、野江が強くなるため。だが、その裏に少なからず柴に秘密を明かすように求めた気持ちもあった。そんな己の醜さに、野江はつくづく嫌気がさしていた。


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