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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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白が決める覚悟(6)


 ソルトの眠りは、痛みと機械の音で妨げられた。


「あきらめちゃいけないよ」


目覚めたソルトの目に、顔色の悪い大きな男の姿が映った。


「アグノ」


ソルトがアグノの名を口にすると、彼は微笑んだ。アグノは気味の悪い咳をしていた。


「良かった、今まで耐えてくれて。本当は、もっと早くに助けに来たかったんだけどね、いろいろと隠していたことがばれてしまって。大丈夫だよ。明日になれば白の石が使われる。明日まで、俺がつなげる」

なぜ、アグノがそのようなことをするのか分からなかった。理解できなかった。

「もう、いいの」

ソルトはアグノに懇願した。このまま死にたいと。それでもアグノは受け入れなかった。


「俺は助けるよ。君のためじゃない。俺の願いなんだ。生きていて欲しい。それは俺のエゴで俺の罪。だから約束する。これから俺は君を守る」


アグノが温かく微笑んだ。アグノは研究者だ。博士だ。なぜ、実験体に固執するのか理解できなかった。研究者であるアグノは、医学院では強者だ。弱者である実験体とは別の世界の住人だ。


「なぜ、そんなことをするの?」

ソルトはアグノに尋ねた。すると、アグノはソルトの腕に消毒液を塗りながら言った。


「俺は雪の国の田舎の出身でね、冬は凍てつく寒さで多くの人が命を落としたものだよ。外界から孤立したような村だから、怪我や病気は命取りだ。医師もいない。俺は単純だからね、自分が医師になれば村を救えると思ったんだ。幸いなことに、俺は勉強が得意でね、奨学金をもらって医学院へ入ることが出来たんだ」


アグノは大きな箱のような機械を動かし、機械から伸びた管をソルトの腕に針を刺してつなげた。

「医学院へ運んだ俺には理想があったよ。雪の国は、誇りある医療国家だ。でも、優れた医療を受けるのは都市部の裕福な者だけ。俺は、医療は平等に与えられるものだと信念があった。だから、俺は医師になりたかったんだ」

機械が音を立てて動き始めた。

「医学院に入った俺は、愕然としたよ。雪の国はこんなにも不平等なんだとね。その中で俺が出会った人がいる。若くて、理想に燃えた俺は、彼女を愛したよ。愛して、理解した。医学院は間違っている。間違っているんだ」

アグノの声は強い。


「その人はどうなったの?」


アグノが愛した人。どうなったのか、純粋に興味があった。

「命を落としたよ。彼女は実験体だったんだ」

アグノの目には涙が浮かんでいた。

「俺は君を助けるよ。もう、覚悟はしている。今回の件で、俺は君を助ける力を失うだろうね。でも、負けたりしない。さあ、もうお休み」


 何がどうなったのか分からなかったが、ソルトは生き残った。翌朝、白の石で命を繋ぎ、抜け落ちた髪は色を変えて再び生えそろった。アグノが実験体へと転落したことは、他の研究者たちの噂で知った。同じようにして、噂がアグノがソルトに固執した理由を教えてくれた。ソルトは医学院で実験の末に生まれた。ソルトを生んだ母も実験体だった。その実験体がアグノの愛した女性だったというだけだ。


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