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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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白が決める覚悟(4)



 物心ついたとき、自らの置かれた環境が異常だと思う心理を持っていなかった。当時、ソルトと数十人は白い部屋の中に入れられていた。ガラスの扉の向こうには、いくつもの機械があり、白衣を着た大人たちが立っていた。その部屋を、ソルトは「白の大部屋」と勝手に名付けていた。

 毎日、決まった時間になると食事が与えられる。知恵の遅れた子も多く、トイレでも排泄を覚えられない子も多かった。もちろん、スプーンやフォークの使い方も分からず、食事も手づかみのことが多かった。最低限の知識を実験体に与えるために、毎日二時間ほどの教育が行われる。それも、少しずつ減らされていた。必要なのは、排泄や食事、更衣といった生活するうえで必要なもの。当然だが、字を書くことは出来なかった。計算もできなければ、数字の理解もない。一年が三百六十五日と言った暦の知識もない。それでもソルトは貪欲に知識を求めた。世話をするために、大人が入るたびに、大人の会話を盗み聞き知識を深めた。

 ソルトが聡明なのには理由がある。ソルトの頭には大きな傷跡がある。今はひきつって髪の毛の下に隠れてしまっているが、生まれて間もない頃手術を受けたことがある。それは、脳をいじる手術だ。幼い子供の脳をいじり、どれほど聡明な脳が作れるか。そんな研究だ。知恵おくれの子にも、同じような傷跡がある。なるほどということだ。かなり危険な手術で、一歩間違えばソルトも白いタイルの床で排泄している彼らと同じだったということだ。それが、幸運なのか不運なのか分からない。何も知らない方がいいということもある。

 決まった時間に床の上を水が流れる。まき散らされた排泄物や食べ屑を流し去るのだ。その時間になると、ソルトは金属の冷たいベッドの上に避難する。男も女も白いワンピースを着て、髪は長く伸びている。逃げ遅れた子は水に濡れるが、それを気にしない子も多い。それが毎日の流れだ。

 ソルトは五歳だった。それは、実験のたびに、読み上げられるソルトが生まれてからの日数で分かる。ソルトは大人に質問したりしない。大人と関わったりしない。それでも、暦の知識があったのは、教えてくれる人がいたからだ。白衣を着た研究者。男は自らを「アグノ」と名乗った。アグノがソルトを贔屓にしていることは明らかだった。ソルトに笑いかけてくれた。薬の量を変えているのもソルトは知っていた。なぜ、アグノがそのようにしてくれるのか分からなかったが、アグノという存在のおかげでソルトの命がつながっているということは事実だった。


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