白が決める覚悟(2)
「ソルト」
優しい声が響くと、そこに吉枝の姿があった。吉枝は寝間着に夏布団を抱えていた。少し曲がった腰で器用に布団を抱える。長年の生活が染み出ている。
「吉枝さん」
ソルトが見上げると、吉枝な慣れた手つきでソルトの布団の横に布団を敷いた。
「ご一緒しても良いかえ?」
暗がりの中で見える吉枝の笑顔から、温かさが零れていた。どっこいしょ、と声を出しながら吉枝は布団に身を横たえた。吉枝の布団は、ソルトの布団よりも薄い。もしかしたら、夏に近づく時分、吉枝の布団が正しい布団なのかもしれない。
「吉枝さん、ありがとう」
ソルトは思わず言った。何が「ありがとう」なのか問われれば答えは分からない。ソルトは吉枝の全てに感謝している。吉枝だけでない。冬彦にも感謝している。雪の国にいるとき、ソルトは何かに感謝することがあっただろうか。
「私は何かしたかえ?」
吉枝は笑いながら言った。
「私は何もしておらん。ただ、可愛らしい子供が、この没落した御薗家に足を運んでくれて、過去の御薗家の栄光を取り戻したような気がして嬉しいだけじゃよ」
吉枝は身を乗り出して、灯りを吹き消した。部屋は暗くなり、障子越しに差し込む月明かりが僅かに部屋の中を照らしていた。
「私は、この火の国に来て良かったわ。とても大切な出会いが出来たのだから」
ソルトの言葉に吉枝は笑った。
「なんだか、不思議なものだね。私のような一介の者が、色神様にお会いしているんだからね。運命とは不思議な流れだよ。私と冬彦が出会ったのも何かしらの縁があったゆえのこと。縁とは人と人を結び、未来へとつながる。なんとも優美で、なんとも強いものじゃよ」
ソルトは色神だ。白の色神だ。白の色神とは命を扱う色神だ。