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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤い免罪符(15)

思えばクロウも異国の人だ。黒い髪と黒い瞳をしていても、高い身長や独特の顔立ちを見ていると異国の人なのだと教えられる。なのに、クロウが黒い着物を着ると、不思議な魅力があって目を奪われるから不思議だ。


――やっぱ、クロウだよね。


なんて言う、黒の声が聞こえそうであった。思えば、しばらくの間、悠真は色たちを見ていないような気がした。色たちは、突然に姿を見せるから悠真はどこか感覚が麻痺してしまうのだ。

「義藤、後は任せる」

遠次がクロウと一緒に外廊下へと出ると、残るは義藤と野江と秋幸と悠真だけとなった。義藤はいざって野江の近くに移動すると、野江の前で片膝立ちになると、そっと手を差し出した。

「野江、今日の出立の時に遠爺に預けた羽織は今、俺が持っています。後で、部屋に届けますので」

傷ついた野江を労わるように、義藤は手を差し出した。野江は赤い羽織を肩からおろすと、その羽織を義藤の差し出した手に乗せた。片手での器用な動作だ。

「義藤、あなたはいつになっても優しいわね。あたくしのことは心配しないで。あなたは、あなたのことを心配なさいな。まだ、顔色が悪いわ。紅はいつも、あなたに無理をさせるのね。時には、言い返してやりなさいな」

義藤は野江から受け取った羽織を流れるような所作で広げると、優美に羽織った。野江が着ると大きいと思えた赤い羽織も、義藤が着るとちょうど良い大きさになるのだから、野江が女性なのだと改めて教えられる。

「俺は紅に振り回されてばかりですが、そこが紅の良いところだったりするんですよ。紅は思うがままに動かなくてはならない。俺はその手助けをするだけです」

義藤は小さく笑っていた。

「あなた、変態ね」

野江の突飛な悪口にも、義藤は笑って返していた。

「ええ、おっしゃる通りです」

野江が明らかに機嫌を害した。

「義藤、まるで佐久のようになったわね。そんなのじゃ、手ごたえがなくてよ。少しは困りなさいな」

野江の言葉を義藤はさらりと交わす。

「いえ、佐久以上です」

「はあ?」

義藤はとても繊細に笑った。

「俺は、野江と鶴蔵が一緒にいるのを見るのも好きですよ」

「義藤!」

声を荒げる野江に義藤は再び手を差し出した。

 一つ一つの義藤の動作は品が良く、流れるようだ。丁寧なのに手早い動きは、悠真が何度も見てきたいつもの義藤だ。この、乱れた色の中で、義藤の色はいつもと変わらない。強いが優しい赤色だった。遠次も黒の色神も変わりないだろうが、発せられる色の強さが違う。

「今日だけは、行き過ぎた冗談を許してください。このようなことを言うは、俺らしくないと思うでしょうが、ご勘弁ください。野江は、いつも俺のことを気遣ってくれます。俺の体調を気遣ってくれます。出会った時から、野江は姉のように優しいのだから。でも、忘れないでください。あなたが俺のことを心配してくれるのと同じくらい、俺もあなたのことを心配しているのです。忘れてしまわないように、何度でも言います。あなたは俺の目標の一つです。いつか超えてみせます。でも、まだ俺の前にいてください。あなたが術士としての荷を下ろすのは、まだまだ未来のことです。今回の戦いで分かりました。あなたは紅の中で大きく存在すると。明日は、俺も動きます。俺は、紅を守るために術士になったのですから」

野江が義藤の手を取った。

「義藤、あたくしも、まだまだ負けなくてよ」

義藤は流れるような所作で立ちあがり、義藤の手を取った野江も立ち上がった。立ち上がると、義藤は野江から手を引いた。

「秋幸、悠真。もう二人で大丈夫だな?」

義藤が言い、秋幸は頭を下げた。

「問題ありません」

「何かあれば、紅に連絡をすればいい。いつでも駆けつける」

義藤は刃物のような横顔で秋幸に言うと、野江を連れて外廊下へと出て行ってしまった。


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