赤い免罪符(11)
手拭いで結んだ矢守結び。その矢守結びに柴は手を添えて、深く頭を下げた。
「約束する。俺は、紅のために戦おう。それだけは、真実だ。今回の敵は、俺がけりをつける」
紅はけらけらと笑った。後ろに手をつき、のけぞるように身をそらし笑う。豪快なのに、紅から零れ落ちる赤がとても華やかに思えた。
「ならば、会ってみるか?」
遠次と義藤が同時に見を乗り出した。
「紅、冗談がすぎるぞ」
「紅、やめるんだ」
二人は紅の行為を止めようとしている。なのに、いつもは紅を止めるはずの野江が平然としているのだ。まるで、皆で柴を責めているように思えるのは、悠真だけだろうか。
「何を止めろと言うんだ?」
紅は遠次と義藤に言った。
「私はね、別に過去がどうとか、あまり興味はない。でも、私の前でそんなに色を乱すな。柴、そして野江」
紅はひょいと立ち上がると、ゆっくりと柴へと歩み寄った。そして、柴の前に膝をつくと紅は柴が結んだ矢守結びに手を触れた。
「柴、私には一色が見える。自分自身の色が見えないから、柴は分からないんだ。私に、そんな色を見せるな、柴も野江も。二人とも、そんなつらそうな色を見せないでくれ。そんな、悲しい色を見せないでくれ」
紅よりも柴の方がはるかに年上なのに、紅は平然と柴に話しかける。それは色神という立場がそうさせるのか、紅という人柄がそのような人なのか、悠真には分からないが、今の紅はとても大きく温かく感じられた。紅は口を開いた。
「――春市、千夏、客人をこちらへ。なに、気にするな。私を殺せるなら、とうの昔に殺しているさ」
紅の言葉には強さがある。
「野江と鶴蔵を助けてくれた恩人だ。何の心配もいらない」
紅はゆっくりと歩むと、最初に座っていた位置に腰を下ろした。大きな音を立てて座る紅の動作に、悠真は目を奪われていた。零れる赤が悠真を惹きつけるのだ。
「来たな」
紅が言った後、障子がゆっくりと開いた。外廊下に膝をついている春市と千夏が、二人の人物を導いた。それは、二人の男女であった。