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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤い免罪符(10)

野江が柴を追い込んでいく。野江は平然と、それでも優雅に微笑んだ。

「あたくしは、あたくしの弱さを認めたまでよ。今回、敗れたのは、あたくしの弱さのせい。あたくしが敗れなければ、宿屋は襲撃されなかったことでしょう。あたくしが敵を倒すことが出来れば良かったのだから。これは、あたくしの罪滅ぼし。罪を許してもらうための行為よ。あたくしは、陽緋として敗れることは許されないのですから」

この場は、野江と柴の言い合いのようであった。野江が何を思って過去を話したのか、何を思って柴に話しかけているのか、悠真より遥か上の次元で話が進んでいく。

「免罪符か……」

柴は言うと、懐から矢守結びの二つのものを出した。

「矢守結びか?何が免罪符なんだ?」

紅が身を乗り出して矢守結びを見つめた。

「免罪符だよ。罪を免除してもらうために。免罪符を買ったりしない。買うような自由がないから、こうやって矢守結びで色神への罪を償おうとする。野江の告白が免罪符のようなものならば、俺たちの免罪符は矢守結びだ。どれほど色神を裏切ろうとも、それに真意はなく、心は罪を償おうとする。昔も今も変わっちゃいない。――敵は強い。野江が敗れたのは、野江が油断していたとか、野江が別のことに気を取られたとか、そんなことは関係ない。敵は強い。俺の力では、真正面から戦っても勝つことは出来ない。義藤、お前でも勝てないかもしれないぞ」

野江が口を開いた。紅は口を閉ざしている。快活な彼女が何を思っているのか、悠真には分からない。

「あたくしは、紅を、この火の国を守るのに必要なことを知りたいだけよ」

柴はげらげらと笑った。

「影の国は、これまで幾度となく火の国を攻めてきた。それは、間違いない。依頼人は、おそらく官府だろうな。依頼内容は紅の暗殺。官府は、秋幸たちのような隠れ術士を使うだけでないということだ。だが、影の国へ依頼をするには、相応の報酬を用意しなくてはならない。だから、俺は失念していたのさ。影の国の存在をな。誰よりも、影の国に詳しい俺がな」

柴は畳の上に置いた矢守結びに手を伸ばし、そっと触れた。柴の大きな手が、優しく矢守結びに触れる。

「これが、俺たちの免罪符だ。俺も結ばなくてはならない」

言うと柴は懐から手拭きを出した。手拭いを細く折りたたみ、そして手早い手つきで結ぶのは矢守結びだ。


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