赤い免罪符(7)
紅は低く笑って言った。
「そういえば、敵は影の国と言っていたな」
紅は何かを知っている。そう思わせるような口ぶりだった。紅にとって柴は仲間のはずだ。なのに、まるで試すように紅は言うのだ。紅の問いに柴は頷いた。
「柴は影の国について詳しいのか?」
紅の問いは確信を得ている。きっと、紅も感じているのだろう。柴が何かを隠していることに対して。この色の不和は、ここに所以するのかもしれない。
「言っただろ。紅。影の国は傭兵の国だ。兵士や術士を育て、依頼を実行する。それが暗殺であっても、戦争であってもだ。狙われているのは白の色神だと俺は思う。冬彦のいた宿が襲撃されただろ。冬彦が白の色神と一緒にいるのなら、狙いは白の色神と考えられる。だが紅。敵の狙いが紅でないという保障はない。じっとしていろ」
柴の声は強い。この場で一番立場が上であろう紅を押さえる力があるのだ。先代の時代に、陽緋と朱将を兼ねた実力は、このような場所でも発揮される。
「私は大人しくしているさ。今日も大人しくしていただろ」
紅は膝の上に肘をつき、頬杖をついていた。そして、紅は野江に目を向けた。
「野江に尋ねてもな、よく分からないのさ。柴も野江も肝心なところは私に隠している。そんな気がする。でも、それでもいい。二人が意志を持って口を閉ざすのなら、それは私が知る必要のないことに違いないからな。私は、私を守る赤の術士の全てを知っているわけでない。柴、私は柴が先代とどのようにして戦ってきたのか知らない。お前の生まれも、育ちも知らない。同時に野江に対しても同じだ。人はすべてを分かりあうことは出来ない。悩みや苦悩、知ることは出来ない。私は、いつもそばにいてくれる義藤でさえ、そのすべてを知らないのだから。それを教えてくれたのは、柴だからな」
悠真は野江に目を向けた。野江はまっすぐに背を伸ばしていた。野江の体より大きな赤い羽織は、いまにもずり落ちそうなのに、野江が作り物のように身動き一つ取らないから、体より大きな赤い羽織が美しく見える。
「野江」
呼んだのは柴だ。