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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
533/785

赤い免罪符(5)


「紅、どこにいる?」

柴は大きな足音を立てて歩きながら口にした。

「分かった、そちらへ向かう」

どかどかと歩く柴は内門をくぐり、紅城の別棟へと足を踏み入れた。正面玄関で草履を脱いで、外廊下を歩き始めた。別棟はいくつもの建物が外廊下でつながっている。その一つ一つが佐久や野江らの官邸だ。いくつかは、空き部屋である。悠真と秋幸が与えられていた部屋も、黒の色神や源三が与えられた部屋もこの別棟の中にある。ただ、同じような光景が続き、似たような建物が並ぶ別棟は、、慣れなければ迷ってしまうのが難点であるのだが。

 いくつもの中庭で囲まれた建物を繋ぐ外廊下を歩いていると、その一つの建物の前に春市と千夏が座っていた。

「野江はあちらです」

言って春市は隣の建物を指差した。ならば、この中には誰がいるのか。悠真は疑問を覚えながら、大きな足音を立てて歩く柴の後を追った。


 春市が指差した建物の前には誰もいなかった。ふた間程度しかない小さな建物は、春市と千夏が控えている廊下と幾何も離れていない。

「入るぞ」

柴は何も言わずに扉を開いた。

 扉を開くと同時に、鮮烈な赤が溢れだした。しかし、鮮烈な赤は変りないのに強さがない。扉を開いてすぐの上座に紅が座り、クロウ、義藤、遠次、そして野江がいた。何かがおかしいと思ったのは、義藤が赤い羽織を羽織っていないからだ。

 悠真は野江に目を向けて、思わず目をそむけた。野江は姿勢正しく座っている。その凛とした佇まいは、いつもの野江と変わらない。悠真が初めて出会った時の野江と、何も変わらない、歴代最強と称される陽緋の佇まいだ。赤い羽織がとても似合う。

野江が肩から掛けた赤い羽織は、野江の体より大きい。長く艶やかでまっすぐな野江の黒髪はほつれて、砂で汚れている。頭には白い布が巻かれていたが、赤い血が滲んでいた。顔や服も砂で汚れている。三角巾で吊られた腕を、姿勢を正したまま野江は労わっていた。満身創痍であることが一目で分かる。それでも、野江の野江らしい凛とした佇まいは、彼女の強さの表れであった。

 紅は不機嫌そうな顔で胡坐をかいて座っていた。

「休んでいろと言ったんだがな、野江は心配ないんだと」

紅は柴に言うと、指を差して柴に座るように言った。紅の指の動き一つで、柴は部屋に入り腰を下ろした。

 悠真はどうしようか迷っていた。この場の空気は明らかに異様だ。傷ついた野江と、苛立つ紅が空気の異様さに拍車をかけている。


――異様な色


 そう。この部屋には、異様な色が満ちていた。核になるのは、紅の鮮烈な赤であることに変わりないのに、鮮烈な赤にいつものような強さがない。同時に、不和が感じられる。それぞれが持つ一色は、いつもと大差ないはずだ。なのに、色の不破が感じられる。断片的にしか色をみることが出来ない悠真であっても、感じるのだ。この色の乱れに一色を見ることに長けている柴も気づいているはずだ。


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