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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の脱獄者(17)


 どれほどの時が流れただろうか。夕焼けが赤く世界を照らしている。夏が近づくこの時期、昼の時間は長い。それでも夕暮れになるほど、野江は動き回っていたということだ。長い一日だった。


 赤い夕焼けの中、野江は鮮烈な赤を見た。


――赤い


不思議だ。その赤を見ると、大きな力に守られているような気がするのだから。


 赤い羽織が美しい。


 赤い羽織を脱ぎながら近づいてくる義藤。


 野江の足から力が抜けた。気が抜けたのだ。紅城を出立したのは今日の話。それでも、長い間紅城から離れていたような気がする。

崩れ落ちる野江を支えたのは、鶴巳と義藤であった。

 鶴巳が野江を支えているうちに、義藤が脱いでいた赤い羽織を野江の肩に掛けた。鶴巳の腕が離れていくのが分かる。野江は、赤い羽織に包まれて義藤の腕の中にいたのだから。義藤に体重を預けながら、野江は鮮烈な赤を見た。


 なぜ、ここにいるのか。


 まったく。


と野江は心の中で悪態をついた。

「なぜ、ここにいるのですか?」

野江は言いながら、ゆっくりと目を閉じた。目を閉じても、そこに鮮烈な赤がある。

「野江、私は信じていた。よく、戻った」

野江の足から力が抜けていく。もう、立っているとは言えない。義藤に抱きかかえられているようなものだ。

「もう、大丈夫です」

義藤の声が響いたかと思うと、野江の体は宙に浮いた。背中と膝の後ろに回された義藤の腕が野江を持ち上げているのだ。

 紅はいつも義藤に無理をさせる。それは、義藤と紅の関係だからこそ成り立つのだろう。時に、義藤の命に危険が及ぶのではないかと思うほど、義藤は無理をする。今も、義藤の体調は万全でないはずで、紅自身も体調が万全でないはずだ。義藤の横顔を見ながら、それを顔にも出さない義藤に、野江は一言嫌味を言ってやりたかった。しかし、言う前に野江の世界はぼやけはじめた。

「もう、大丈夫です。もう、安心してください」

義藤の腕は鶴巳の腕と違う。華奢に見える義藤も、さすが術士と言うべきだ。その腕の力強さは本物だ。だが、義藤が野江に「大丈夫」「安心しろ」と言うなど、数年早い。野江は陽緋で、義藤は朱護頭。術と剣術を交えた戦いでは、野江は義藤より上をゆく。野江はそのことに対して嫌味をいってやりたかったが、それも適わなかった。義藤の赤い羽織に包まれて、義藤の腕の中で野江はゆっくりと視界を巡らせた。

 野江の居場所はここなのだと、再確認させられる。


「柴、戻ってこい。野江が戻った。今すぐだ」


紫の石に話す紅の姿を見て、野江は安心した。


――ここが、あたくしの居場所


野江は義藤の腕の中でゆっくりと息を吐いた。



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