緋色の脱獄者(16)
野江の姿を見て、門番が慌てたように門扉を開く。
「陽緋様!」
傷ついた野江を見て、只事でないことに門番たちは気づいたのだ。
野江は転がり落ちるように浮雲から降り、野江を抱きしめるように鶴巳が支えてくれた。
「大丈夫よ。大丈夫だから、義藤を呼んでちょうだいな」
野江が言うと、二人のうちの一人の門番が勢いよく駆け出した。残る門番が野江を紅城の奥へと案内しようとするが、野江は首を横に振った。
「アグノ、杉。あたくしは、陽緋野江として、紅城の内部へあなたたちを連れて行くことができないのよ。あたくしは、紅を守る存在。紅の許可なき者を、勝手に導くことは出来ないわ」
野江の言葉の意味を理解したのか、アグノと杉は深く頷いた。紅城には義藤が残っている。野江にとって、義藤はその力を認めた存在。野江は折れそうな膝を立たせるために、必死に浮雲にしがみついた。残る門番はおろおろと立ち尽くしていた。
「義藤……」
野江は義藤を待った。アグノと杉が敵でないことは分かる。それでも、慣例は無視して良いものではない。悠真の時とは違う。悠真の時は、紅自身が悠真を紅城へ招いたのだから。アグノと杉は違う。二人は、敵でないが味方であるという保証はないのだから。
「野江」
鶴巳の声が響き、野江の体を支えた。門番が戸惑ったように硬直している。
「あなたらしくもないわね」
野江は鶴巳に言った。鶴巳が他者の前で野江と親しく接するなど珍しい。都の中ならまだしも、ここでの野江は陽緋だ。鶴巳はからくり師だ。まるで、大きな壁が消えたようだった。
「あっしは、あっしでございやす」
鶴巳のぼさぼさの前髪の間から、そっと目が垣間見れた。
「そうね、鶴巳」
野江は鶴巳に答えた。