緋色の脱獄者(14)
先代の紅も赤丸も、柴に信頼を寄せていた。その信頼は厚く本物だ。野江は柴に対して数えきれない恩がある。二年前の戦いで傷ついた佐久や都南。二人の心を救ったの柴だった。柴の大きさはいつも野江たちを守ってくれていた。
「行きましょう」
野江は言った。どこへ?と言う視線が向けられた。
紅に保護を求める?
ソルトを救うために動く?
こんな傷ついた体で何が出来るのか。分からない野江に、杉が言った。
「馬ならいるよ。萩が捕まえていたから。一頭は逃げられたけど」
言って杉が指差した先には「浮雲」の姿が見えた。
「杉、あたくしの紅の石と紫の石は持っているかしら?」
野江の問いに杉は首を横に振った。それほど甘くはないということだ。ならば、野江の行動は決まっている。紅の石を持っていない陽緋なんて、笑い話でしかない。柴が出ている今、すぐに新しい紅の石を手にすることは出来ないだろう。それでも、野江には紅の石が必要であるし、紅に全てを報告しなくてはならない。敵の実態を、敵の狙いを。そして、紅に判断を仰がなくてはならない。
「紅城へ戻りましょう」
戻って事態を報告しなくてはならない。
野江は陽緋なのだから。