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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の脱獄者(12)


「それはね、柴の石だよ」


野江だけでない。鶴巳も絶句していた。


――柴

――柴

――柴


野江を救いに来てくれた人だ。一流の加工師で、先の陽緋と朱将を一人で請け負っていた。

「そんなはずは!」

めずらしく鶴巳が声を荒げた。その意味が分からないようで杉は困惑していた。

「あたしは柴のことを知らない。覚えてないよ。誰も柴のことを知らない。萩も知らない。でも、柴という名は知っている。柴という人がいたことも知っている」

意味が分からなかった。野江は杉の言葉の意味が分からなかった。知らないのに、知っている。その矛盾した説明の理解に苦しんだ。


 野江が柴と出会ったのは、二十年前だ。柴は先代の手足だった。その時の柴は、野江よりずっと強くて、野江から見た憧れる大人であった。しかし、思えば野江は柴のことを何も知らない。尋ねても、あの大きな笑みで交わされてしまうのだ。尋ねてはならない。そういう雰囲気を持っていた。その柴と影の国が通じているなんて、信じたくなかった。佐久が消えた今、柴だけが頼りなのに、柴が裏切るなんてことは信じたくない。


「すみませんが」

張りつめた空気を和ますようにアグノが口を開いた。

「杉、すみませんが頭を見せてもらえませんか?」

杉は困惑していた。アグノは穏やかな笑みを浮かべた。

「髪で傷跡を隠していませんか?側頭部からの傷です」

理解できない野江にアグノは淡々と続けた。

「先ほどの萩にも傷跡がありました。もしかすると、杉、松、ベルナにも傷跡があるのではありませんか?」

困惑する杉は頷いた。野江は理解できない。理解できないが、杉の頷きを見てアグノが深くうなだれたのは事実だった。

「アグノ、どういうことなの?」

野江が尋ね、アグノは顔を上げて答えた。

「雪の国は医療国家です。それは、私が医学院に入ったころ、いえ、その前から行われていたのかもしれません。雪の国は、人間の精神を操ることが出来るか実験をしていました。人間の脳を手術して、思うような操り人形を作ることです。もし、それが実用化されれば最強の軍を作ることが出来るでしょう。恐れも、何も知らない軍に。――杉、あなたは萩以外信じられない。萩に対する執拗な依存がある。それは、どこかでエラーが出たからでしょう。本来ならば、忠誠を誓う王に対して抱かなくてはならないもの。きっと、萩らも逆らうことが出来ない」

アグノは一つ息を吐いた。

「萩を見たとき、傷跡を見て、まさかとは思いつつ信じられなかったのです。萩は命令を順守するようで、それに逆らうような面があった。必要以外の殺しはしたくない。それが一つです。あの手術で、そのようなことはあり得ません。ですが、杉。あなたを見て確信しました。手術は行われていた。きっと、萩という人が心から優しい人だから、必死に逆らっているのでしょう」

野江はなんとも言えない気持ちになった。

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