緋色の脱獄者(11)
「萩はどこへ行ったの?」
野江は尋ねた。すると杉は子供のように悲しそうな目をして言ったのだ。
「萩は探しに行ったよ。標的を探しに行ったよ。一回、逃がしてしまったみたいで、もう一度探しに行った。他の奴らと一緒にね」
杉の萩への思いは本物だ。信頼している。
「あなたたちは、何人で動いているの?」
杉は答えた。
「五人よ。あたしと、萩。あと三人」
「あと、三人は?」
野江は杉に尋ねた。きっと、杉は嘘を言ったりしない。
「しゅどりーど、松、べるな」
しゅどりーど、べるな、は聞きなれない響き。それは間違いなく異国の響きだ。もしかしたら雪の国の名かもしれない。野江がそう思い尋ねた。
「しゅどりーど、べるな、はどんな字を書くの?」
すると、杉はころころと転がるように笑って土に字を書いた。それは、野江が読める字ではない。すると、アグノが野江に囁いた。
「雪の国の字ではありませんね。ベルナという字はみたことがあります。ベルナは砂の国の字かもしれませんね。シュドリードについては分かりません」
――砂の国
その国の名を野江は知っている。
「砂の国は黄の色神を持つ国ね」
僅かな知識は佐久から習った。だが、野江はその国の詳細を知らない。鎖国をしていない雪の国の術士であるアグノの知識は流石というべきだ。
萩と松は火の国の名だろう。独特の響きだが、漢字が当てはまる。野江の中で萩に対する印象は悪くない。
「残りの三人は、どんな人なの?」
野江が尋ねると、杉は躊躇うことなく答えた。
「シュドリードは術を使えないけど、松とベルナは強いよ。松もベルナも優しいけれど、萩が一番優しいよ」
「シュドリードという人が、あの年老いた人ね」
野江の言葉に杉は頷いた。野江は様々な名を聞いて、一つ気になることがあった。「萩」「杉」「松」という特徴的な響き。ふた文字の音、自然物の名。思うと、野江の手の中で紅の石がころがった。加工された紅の石を見た時に感じた色を思い出した。
まさかという思いもあったが、野江は手の中にある紅の石の色を思って尋ねた。
音の響き
加工の技術
野江が感じる色
勘でしかなかった。野江は色をみることが出来ないのだから。だが、気になってしまったことは尋ねなくては落ち着かない。
「この、紅の石を加工した人は誰なの?」
杉は、野江の問いの重さを知らない。だから、邪心なく答えてくれる。