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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の脱獄者(10)

野江は女との距離を詰めるために探りを入れた。

「あなた、名前は?」

野江は尋ねた。名前を知ることは、距離を近づける一つの作業だ。

「萩は言っていた。尋ねられたら答えなさいってね。あたしの名前は、杉」

野江は思った。名の響きからして、女は火の国の民だ。名にするには珍しいが、考えられなくともない。

「杉、あなた尋ねられたら答えるように命令されたのね」

すると、杉は声を荒げた。

「違う、萩はあたしに命令したりなんてしない!」

野江は杉から何かしらの違和感を覚えた。まるで、萩という相手に対してだけ忠誠を尽くしているように見えるからだ。異質な関係のように思えるのだ。杉は、外見こそ大人だが中身は子供だ。子供のようにしか見えなかった。自らで考えたり、決断したりすることを放棄した子供だ。それが、なぜか野江の心を苦しめた。杉は野江たちを殺したりしないだろう。殺すならば、杉に命令する者だ。それが「萩」なのか、違うのか分からない。

「萩って言うのは、誰なの?」

野江は言った。杉と話していると、幼い子供と話しているような気持ちになった。だが「萩」という名が出た瞬間に、杉の表情が明るくなったのだ。

「萩は良い人よ。あたしを守ってくれるんだから」

要領を得ないので、野江は再び尋ねた。

「それは、アグノを連れてきた男なの?」

良い人と聞いて、野江はアグノを連れてきた男を思い出したのだ。あの雰囲気ならば、杉に野江たちを逃がすように指示しても不思議でない。

「そう、萩」

萩という響きも火の国の響きだ。杉同様珍しい響きであるが、考えられなくもない。

「萩っていう人は、杉に何を言ったの?」

野江が尋ねると、杉は答えた。まるで、萩に対して親のような甘えを抱いている幼子のような気がした。

「萩は、あたしに言ったよ。一、囚人が逃げ出したのなら、それはそのままにしておく。二、囚人が尋ねたことには、偽りなく答える。三、囚人があたしに牙を向けたのなら、遠慮なく殺す。四、囚人があたしに危害を加えないのなら、囚人を自由にし、囚人を助ける。五、囚人があたしを助けてくれるなら、あたしは囚人についていって助けてもらう。それが、あたしが萩に言われたこと」

野江は、杉という人が計り知れなかった。そして、杉の後ろにいる萩だ。まるで、萩は杉を逃がそうとしているようなのだ。そもそも、野江たちが杉を助けるならついていく。なんて可笑しなことだ。だが、確かなことがある。野江たちが杉に危害を加えない限り、杉は味方だということだ。なんでも話してくれる、助けてくれる仲間だ。


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