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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の脱獄者(9)


 洞窟は一本道だから迷うことはなかった。次第に辺りが明るくなる。野江は一つ息を吐いた。

 暗い洞窟から逃げ出すことが出来たのだから。


「脱出おめでとう」


響く女性の声に、野江は身を固めた。それは、野江に肩を貸す鶴巳も同じだ。

「でもね、あんたたちが脱出を試みることなんて、こっちは予想済みなの。少なくとも、萩は予想していた。だから、見張り役のあたしに言ったの。逃げ出そうとするなら、好きにさせろって」

言うのは、女であった。年齢は野江と同じくらいだろうか。幼い印象を持つが、彼女が術士であることに間違いないようであった。その手には、石が握られているのだから。女も火の国の民であるに違いないだろう。顔立ちが火の国の民と同じだ。どうしても異国の者は異国の雰囲気が消し去れない。敵は影の国という異国のはずだ。なのに、火の国の民が敵にまわっている。本来ならば、選別で術士としての才覚を見出され、術士として紅のために戦うはずの存在だ。

「その紅の石、使うのは無駄よ。その石はね、二十年以上前に逃げた人が加工したものだから。誰も使えないの」

女の言葉には理解できないことが多い。女は野江たちの脱出を知りつつ、それを見ていたというのだ。

「どういうことなの?あなたたち、一体何なの?」

敵の存在は野江の理解を超えていた。敵に正体を尋ねるなど、愚かな行為かもしれない。それでも野江は尋ねずにいられなかった。そうしなければ、現状を理解できないのだ。敵の正体も分からない。脱出したことで命を奪われるのならば、この時点で野江の命は終わっている。恐れるものはない。生き残る道を探すだけだ。女は不敵に笑った。

「萩はね、あんたたちがそう尋ねたら、答えろって言っていたよ。あたしたちは影の国の術士」

だが、野江には女は火の国の民にしか見えなかった。

「いえ、あなたは火の国の民よ。少なくとも、あたくしには、あなたが火の国の民に見えるわ。あなたも、そしてアグノを連れてきた男もね」

言うと女は、けらけらと笑った。

「あたしは影の国の術士。影の国の術士として、依頼を果たすために戦うのよ」

野江は女を見た。これは野江と女の戦いだ。


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