緋色の脱獄者(4)
雪の国と火の国は異なる国だ。異なる国なのに、支える色神の命は同じだ。そして、色神は命を狙われる。白の色神と野江が守る紅は別人だ。なのに、白の色神と紅が重なって見えるから胸が痛むのだ。
「私はソルトを守りたい」
アグノが言った。
(私は紅を守りたいの)
野江自身の言葉がよみがえる。同じだ。野江もアグノも同じなのだ。色神のために生きる。同じなのだ。
「傷、痛みますか?」
アグノが、ふと口にした。アグノは柴と似ているが、柴よりも穏やかな雰囲気を持っていた。
「いえ、なんとも無いわ」
野江が答えると、アグノは優しく微笑んだ。
「ソルトと再会できたのなら、白の石を使って傷を癒してください。この程度なら、代償を支払わずに済むでしょう。ですが、あなたは傷を癒すべきです。あなたは強い。あなたは、赤の色神に必要な存在でしょう」
ただ、褒められるだけでくすぐったいような気持ちになる。
「野江よ」
野江は名を言った。
「ええ、野江」
アグノは穏やかな雰囲気を持つ。
「なぜ、傷を癒すべきだと?命にかかわらなければ、時間が解決してくれるわ」
野江は痺れて感覚の無い右手を左手でさすった。三角巾で吊られて、それでも異質な感覚だけが残った。
「命を繋ぐことと、戦うことは別でしょう。野江が赤の色神に必要な存在であり、赤の色神のために戦い続けるのなら、その右腕は必要なもの。分かります。あなたは、刀を握って戦う身。――赤の色神は恵まれている。優れた術士が、赤の色神のために戦う。ソルトには、私しかいなかった。誰しもがソルトを崇拝し、そして敬遠する。ソルトは誰にも心を開かない。今、私は感謝しているのです。冬彦がソルトのために戦ってくれて。ソルトが冬彦に心を開くことが出来て」
アグノには包み込むような穏やかさがあった。穏やかで大きい。しかし、彼は白の色神のために戦うのだろう。護衛として、まるで番犬のように。アグノは野江の耳に口を寄せ、そっと囁いた。
「彼はとても素晴らしい人ですね」
思いもよらないアグノの言葉に、野江は何と返答して良いのか分からなかった。ただ、野江の心臓が強く脈打つのを覚えた。
「いえ、出過ぎたことを申しました」
アグノは再び言うと、そっと野江の耳から口を離した。