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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の脱獄者(3)

 野江は異国にあまり興味がなかった。野江は火の国に目を向けることが精一杯で、異国のことは佐久に任せていたのだ。雪の国は白の石を持つ国。北の大国。そして、医療大国。野江が知る雪の国とはその程度のものだ。アグノの言葉は続く。

「雪の国の冬は、人も獣も殺す冷たさを持ちます。雪の国には大した産業もありません。農作物も大して作れません。鉱物に恵まれているわけでもありません。それでも雪の国は大国として存在する。――それは、白の石の力です。きっと、雪の国という美しく冷たく閉ざされた国は、白の石の神秘の力をより一層魅力的に感じさせることが出来るのでしょう。雪の国の民は、だれもが白の石の力を、命を扱う力を崇拝しています。雪の国は医療国家です。どのような国よりも優れた医療技術を誇ります。その医療技術を支えていたのが医学院という施設です。医学院は、医療の研究のために実験を繰り返していました」

そこまで言うと、アグノは口を閉ざした。まるで、語りたくない過去を振り絞るように、アグノは俯いていた。その手は強く握られている。振り絞るように、それでも語られた言葉に野江は耳を傾けた。

「医学院では実験が繰り返されていました。私は医学博士として医学院に入りましたが、医学院で愛する人と出会いましてね、彼女は実験体でした。実験体とは、医学院での人体実験で利用される者のことです。実験体は名もなく、死ぬまで過酷な人体実験を繰り返されるのです。私は彼女を救おうと画策しましたが、救えず、実験の末生まれた彼女の娘を救おうとして、自らも実験体として堕ちました。雪の国は美しい国です。ですが、とても残酷な国です。私の体は、実験で命を落としかけるたびに白の石で命を繋ぎとめられました。医学院では毎年、多くの実験体が命を落としました。ソルトが医学院を廃止しなければ、今年もさらに多くの人が命を落としていたでしょうね。私の体は、実験に蝕まれているのですよ――きっと、ソルトが命を狙われるのは医学院を廃止したからでしょう。医学院は雪の国にとって、国を支える基幹産業のようなものです。その産業を失い、国は焦ったのでしょう。焦り、自らの手でソルトを殺すことが出来ないから、影の国に依頼した」

アグノは包帯の巻かれた足をさすっていた。さする足は赤い血が滲んでいる。野江は雪の国を知らない。白の色神の姿を知らない。アグノが語る医学院の歴史は、雪の国の負部分だ。冷たく美しい雪と氷に覆われた国に隠された、負の部分。医学院を廃止したということに、白の色神の強さを知った。雪の国が医学院に支えられているのなら、医学院の廃止は雪の国の根底を揺るがす危機だ。他国の力を借りてでも、雪の国の幹部は白の色神を排斥したいのだ。


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