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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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白の家族(12)

 敵を異国だと伝えたソルトの言葉が信じられないのか、冬彦があからさまに動揺した。

「他国って、異国の色神を殺すような国があるのか?そんなことすれば、戦争が起こるだろ」

冬彦の言うことは最もだ。他国の色神を殺すこと、そんなことをすれば戦争が起こってもおかしくない。色神はその国にとっての神だ。もちろん、死んだところで次の色神が生まれるのだから、実質的な被害は生じないだろうが、自国の神を殺されたという事実が国の誇りを傷つける。色神の死は、国の中枢をかき乱す。国を破壊しようとしているとも取られかねない。

 しかし、ソルトは知っている。金さえ払えば、いかなる依頼も実行してくれる国があるのだ。そのようにして、国を成り立たせている国があるのだ。

「影の国だね」

ふと、吉枝が口にした。吉枝がなぜ、それを知っているのか、ソルトには分からない。

 理解できないソルトに、吉枝はゆっくりと続けた。

「影の国。二十年前に、五郎が見出した紅様暗殺計画にも影の国が関わっていたよ。影の国に依頼するには金がいる。五郎は、その異質な金の流れで影の国の存在を知り、紅様暗殺の計画を知ったんだよ。――五郎は言っていたよ。紅様暗殺を計画する者は影の国を隠すために、人の名で呼ぶ」

吉枝が語ることに偽りがあるとは思えない。二十年前に、赤の色神の暗殺計画を知った浅間五郎は、自らの力で調べ上げたのだろう。

「人の名って?」

冬彦が怪訝な表情で尋ねた。吉枝は一つ息を吐き、けがらわしいものを吐き出すように口にした。

「――庵原太作」

突然口にされた名。火の国では、影の国のことを人の名にして口にしていたのだ。

「庵原太作が紅様暗殺を起こす。そうすれば、誰も犯人として勘ぐられない。変に影の国なんて、知られない方がいい。そもそも、火の国は鎖国をしているのだからね」

吉枝の言葉の後ろに「浅間五郎」が見えた。ソルトの知らない男だ。二十年前に死んだ男。そう思うと、不思議な気持ちがした。浅間五郎がいなければ、きっと今の火の国はなかった。間違いなく、浅間五郎という男が火の国を救ったのだ。妻と子供と妹の命を守るために、国を守ったのだ。

「庵原太作ね。野暮な名前」

ソルトの言葉に吉枝が笑った。

「そう、ソルトの言うとおり。同じようなことを、五郎も言っておったよ」

過去を懐かしむように微笑む余生の目じりが下がった。


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