白の家族(8)
吉枝の話を聞いて、ソルトは泣いていた。吉枝は強い。ソルトよりも、ずっと強いのだ。
「浅間五郎か……」
冬彦が小さく呟いた。二十年前に吉枝を訪ね、紅の暗殺計画を知り、そして戻ってこなかった。きっと、命を落としているに違いない。
「五郎は優しい子だったよ。私は鳳上院家に全てを奪われた。五郎も、鳳上院家に全てを奪われたようなものだよ。きっと、鳳上院家は呪われているような慣習があるのだろうね。五郎は生まれてからずっと、鳳上院家に苦しめられ続けたんだよ。それでも、紅様と通ずることで一矢報いることが出来たんだろうね。きっと紅様は五郎の交換条件を呑んだのだから」
冬彦が吉枝に尋ねた。
「浅間五郎の交換条件って、何だったんだ?」
吉枝は優しく目を細めた。
「我が子と妻と妹を救って欲しい。五郎らしい、優しい願いだよ」
「浅間五郎ね」
冬彦は何とも言えないリアクションを示した。
「知っている人なの?」
ソルトは冬彦に尋ねると、冬彦は笑った。
「知るわけないだろ。そいつが死んだのは、二十年前だぞ。俺は生まれてないって」
「だって、気にしていたでしょ」
冬彦は首を横に振った。
「いや、浅間五郎は家族を思い、命を懸けた。俺には縁遠い話だけれど、少し羨ましいなって思ってな」
ソルトも家族を羨ましいと思っていた。同じように、冬彦が考えていたのだと知ると、少し嬉しく思った。
「私も家族がいないから、羨ましい」
ソルトも冬彦に答えた。