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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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白の家族(5)

 ソルトは元来、食が細い。そのソルトが吉枝の作った粥を食べてしまうのだ。身体の中を熱が満たし、優しさがソルトを満たす。

「美味しい」

ソルトは呟いた。頬が熱を持つ。これほどまでに、美味しい物を食べたことがないように思えた。

「美味しいってさ」

冬彦がソルトの言葉を吉枝に伝えた。当然だ。ソルトに吉枝の言葉が届かないように、吉枝にもソルトの言葉は届かない。

「********」

吉枝は何とも言えない表情で微笑んだ。言葉はコミュニケーションの一部だ。その言葉が通じないだけで、ソルトは寂しさを覚えるのだ。実験体であったころ、誰も信じていなかった。一人でも平気だと思っていた。死を恐れることもなかった。なのに今、ソルトは孤独を恐れていた。アグノの優しさを知っているから、冬彦の温かさを知っているから、吉枝の笑顔を知っているから、ソルトは孤独を恐れた。

 目を向けると、吉枝の息子の着物をまとった冬彦がいた。


――家族


それはソルトの知らないものだ。ソルトを生んでくれた母はいるが、家族ではなかった。

「冬彦」

ソルトはが言うと、冬彦はじっとソルトを見つめた。冬彦の目の中に、自分の姿が映るのではないかと思ったほどだ。

「どうした?ソルト」

言うと、冬彦は首をかしげた。

「冬彦に家族はいるの?」

尋ねると冬彦は小さく笑った。そして、手に持ったままだった茶碗を膳の上に戻すと、さらにまっすぐにソルトの目を見た。

「いないさ。俺は、生まれてすぐに親に捨てられた。親の顔なんて知ったものじゃない。俺は、赤ん坊の頃に女術士に拾われて、婆様のところに預けられたんだ。でも、仲間がいる。今までは、春市や千夏、秋幸がいた。一緒に育った子供たちがいた。そして今は、紅がいる。紅の仲間の赤の術士たちは、俺の仲間だ」

照れたように言った冬彦は、目を伏せて、再び粥を手に取った。空っぽの茶碗を匙でつついているのは、落ち着かないからかもしれない。

「*******」

吉枝が何かを言った。しかし、ソルトにはその言葉の意味が分からない。この火の国にとって、ソルトは異質な存在なのだ。異邦人なのだと実感させられる。この温かい国は、ソルトの国でない。そう思うと、急に悲しくなった。

「*********」

吉枝が身を乗り出し、ソルトの肩に触れた。

「**********」

何を言っているのか分からないのに、とても嬉しかった。

「冬彦、もう大丈夫だから、紫の石は私が使うわ」

冬彦が小さく頷いた。ゆっくりと身を引いた吉枝は口にした。

「冬彦のお姫様は、術士だったんだね。いや、何も尋ねないよ」

吉枝が言うから、ソルトは首を横に振った。

「いいの。助けてもらったから。こんなに、温かい物をくれたから」

ソルトは目を伏せた。

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