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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤い夜の戦い(5)

 悠真は長い間戦う彼らを見ていたような気がしたが、実際は長い時間ではないだろう。紅城にいるのは野江たちだけではないはずだ。建物の中にいる朱護たちが紅がいるはずの場所に駆けつけてこない。つまり、戦いはきわどい均衡で保たれたまま長い時間を経ていないということだ。義藤の赤い羽織は所々切れ、握り締めた悠真の手には汗がにじんでいた。悠真は敵に気づかれないように、必死に息を殺すことしか出来ない。

――なぜ、ここへ来たのか。

――己の無力さなど知っていたはずなのに、どうして復讐すると息巻いたのか。

 後悔したところで遅い。義藤の足手まといにならないように、悠真は物音を立てず動かなかった。悠真の存在が、戦いの均衡を崩さないように必死に願った。木屑は燃え続けているが、さほど大きな炎となっていない。部屋に煙が満ち始め、悠真は口元を手で覆った。

 主に戦っているのは長である男と女の二人。二人の剣術は確かで、二人は義藤と対等に渡り合っていた。徐々に追い詰められる義藤。悠真は祈った。どうか、義藤が傷つかないようにと。どうか、義藤が無事に朝を迎え、赤の仲間と再会を出来るようにと。


 直後、黒服の敵が放った紅の石の力が鋭い刃となり、悠真のすぐ近くと通り過ぎた。自分に命中するかと思って、悠真は身を固めた。声を出さなかったのは、悠真の小さな勇気の結果。しかし、そのこわばりが小さな木屑を動かし、小さな木屑が木の破片を動かし、小さな音を立てた。とても小さな音。なのに、その音は黒服の敵が悠真の存在を知るのに十分な音だった。


 女が義藤から悠真へと駆け出した。彼女は悠真を紅だと勘違いしたのかもしれない。義藤が守る存在がここにいる。義藤が守るのは紅だけ。暗い場所、悠真と紅を間違えるのは当然のこと。悠真が紅と勘違いされている。

――義藤が自分を見捨てればいいのに。

悠真はそう思った。そうしなければ、悠真は確実に義藤の足手まといとなってしまう。それだけは避けたかった。

 女が紅の石の力が目の前に迫り、悠真は死を覚悟した。死ねば、黄泉の国で祖父や惣次、顔も忘れた父と母に遭えると願ったのだ。しかし、悠真を守ったのは義藤の紅の石の力。義藤は悠真を守ったのだ。

 想像通り悠真の存在が、戦いの均衡を崩した。女が駆け出し、一人になった男の助っ人なのか、咄嗟に義藤に飛び掛った子供が義藤の刀の前に倒れた。その隙に、女が紅の石でなく刀で悠真に斬りかかり、義藤は再び紅の石で悠真を守った。義藤が危険にさらされている。なのに、当然のように義藤は身を守っているのだ。そして悠真は感じたのだ。紅が赤の仲間たちに死なないでくれ、と伝えた言葉の真意を感じたのだ。自分のために誰かが傷つくことはとても辛いことだ。

 黒服の敵はようやく見つけた紅の存在に焦っているのか、その紅が偽者だとも知らずに執拗に悠真を狙っていた。女だけでなく青の石を使っていた優男も敵は紅の石や他の色の石で悠真を狙い、その石の力を義藤の紅の石が防いでいる。強い石の力のぶつかり合いで周囲は崩壊し始め、物は眼下の地へと落ち、露になった紅の部屋の畳みがはがれ宙を舞った。香台も倒れ、簾が引きちぎられた。義藤の紅の石の力が、悠真を守り続け、義藤は悠真を守りながら、残った一人と刀を交えていた。風が舞い、赤い光が暴れる。暴れた赤の光は刃となり生き物のようにうねっていた。それは広大な海の荒波であり、村を襲う嵐であり、嵐の空に轟く雷鳴であり、すべての力の根源のように思えた。赤の仲間の足音はまだ聞こえない。助けはまだ来ない。


 満たされる赤。

 暴れる赤。

 

 敵の石が色を失い砕けた。紅の石は無限に使用できない。限界に達したのだ。嵐の夜、惣次の石が砕けたのと同じことだが、黒服の敵はいくつもの石を持っている。砕けては次の石を使い、そして砕けては次の石を使う。それを繰り返し、必要以上に悠真の命を狙ってくる。紅の石の力を、悠真を守るために使っている義藤は、刀一本で敵と渡り合い、敵の紅の石の力を交わし、刀で攻撃を繰り出していた。義藤は紅の石の力を節約しながら戦っている。義藤の紅の石は色を弱めてしまっているから、義藤は慎重に石を使っているのだ。

 もし、義藤が紅の石の力を節約することなく使えば、義藤は優位はもっと優位に戦えるかもしれない。危うい均衡ではなく、義藤の力で相手に勝てるかもしれない。


 危うい均衡で保たれている戦いの終焉は一瞬のこと。義藤の生命線であった紅の石が限界に達し色を失ったのだ。

 砕けた石は透明で、色を持たない。

 義藤の持つ紅の石の色は弱っていた。紅が心配し、次の石を手渡すほどだ。火の国最高の加工師柴が加工した紅の石は悠真を守るための赤い力を発揮した後、限界に達した。黒服の敵はいくつもの石を使い壊している。義藤の石が限界に達するのは当然のことで、むしろ弱っている石がよくここまで持ちこたえたものだ。それは、義藤が節約しながら紅の石を使っていたことと、加工師柴の加工の腕が確かなことによるものだろう。

 義藤の守りが無くなり、悠真の目の前に赤い光が迫った。悠真は、再度死を覚悟して強く目を閉じた。


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