白の家族(2)
ソルトは寒さに震えていた。そんなソルトの額に冬彦の手が触れた。冬彦の手はしっとりと汗ばんでいる。この部屋の気温はかなり高いのだ。なのに、吉枝や冬彦は何も言わず、火鉢に火を入れてくれている。
「寒いのか?」
冬彦はソルトに尋ねた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「紫の石を俺にくれ。俺が石を使う。紫の石を使うのも、負担だろ」
冬彦は優しい。その優しさはアグノとは違う。アグノの包み込むような温かさはない。それでも、ここに冬彦がいる。それだけで、ソルトは幸せに思えるのだ。
ソルトは震える手で、首に掛けてあった紫の石を取った。冬彦はソルトの手ごと包み込むように両手で握った。
「ソルトの声は、俺に届いている。俺に届いているさ」
冬彦の両手は温かい。アグノのように大きくなくて、骨ばった手。これが、ソルトと年齢の変わらない冬彦の手だ。
――温かい。
ソルトは思った。冬彦の温もりが温かい。
「*************」
吉枝はゆっくりと立ち上がり、着物を正した。年老いた吉枝の動きには品があった。その品とは、没落したとされるこの家で生きた吉枝の人生を物語っていた。
冬彦はソルトの手を両手で包んでくれている。とても温かい手だ。どれほどの時間、そうしていただろうか。冬彦の温もりがソルトの身体の中に流れ込んでくるようだった。不思議と、身体の震えは落ち着いてきた。冬彦は何も言わない。何も話さないのに、ソルトの心に何かを語りかけてくる。
――温かい。
ソルトはじっと冬彦を見た。冬彦は火の国の民だ。なのに、雪の国の民よりも白が似合う。これほどまでの、白の一色をソルトは見たことがないのだ。