赤い追跡者(17)
秋幸が口が開く。ゆっくりと息を吸い込み、目を細める。
「――柴」
不思議だ。悠真は秋幸と柴を見比べた。二人の距離が急激に近づく。悠真の見る断片的な一色。色が近づいていく。柴の大きな色が秋幸を受け入れていく。
名が人と人を近づける。そのようなこと、悠真は考えたこともなかった。柴は満足そうに笑った。柴の大きさを持つ赤色が零れ落ちる。
――赤い。
――赤い。
――赤い。
赤い色。その色にどれだけ心を奪われれば良いのか。赤い色にどれだけ救われれば良いのか。きっと、火の国にとって赤い色は希望の色なのだ。柴の持つ赤も、悠真の心を惹きつける。普通の人には色が見えない。秋幸も他の赤の術士も柴の色が見えないはずだ。それでも皆が柴に信頼を置くのは、色を見るのではなく、本能的に色を感じているからかもしれない。一色の見えない者であって、柴の大きさを感じる。大きく広がりを持つ赤を感じるのだろう。
「ほら、行くぞ」
柴は言うと、舞風の背に飛び乗った。舞風の黒い毛並が太陽の光を反射する。舞風の上から柴は手を伸ばし、悠真に手を差し出した。もちろん、悠真はその手を取った。秋幸も絹姫に騎乗している。柴は馬を歩かせ始めた。
だが……
悠真は柴を信じている。その色を信じている。柴が裏切り者だとは思わない。しかし、漠然とした不安があった。
襲撃の場に残される矢守結び。
矢守結びに反応を示す柴。
影の国。
悠真は不安を打ち消すように都から見える紅城に目を向けた。紅の鮮烈な赤は見えない。それでも、思い出すことが出来た。すべてが終わったとき、紅は笑うだろう。鮮烈な赤を放ちながら、火の国の色神として笑うだろう。
――二十年前。
悠真は何度もその話を聞いた。
二十年前に先代紅の心を痛めさせた浅間五郎。
二十年前に起きた先代紅の暗殺計画。
二十年前に選別前に紅城に招かれた野江。
二十年前に何があったというのか、悠真は知らない。しかし、全てが無関係とは思えなかったのだ。