赤い追跡者(10)
今、冬彦は姿を消している。消したが冬彦の意志なのか、攫われたのか分からない。だが、冬彦が優れた術士であることは事実なのだ。冬彦が対処できない敵が現れたのなら、それは火の国にとっても脅威だ。野江が敗れたのは奇襲だとして、冬彦が敗れたのは……。
いや、と悠真は思考を止めた。冬彦が敗れたという確証はない。もしかしたら、敵に打ち勝ち、勝利の余韻に浸っているかもしれない。悠真は出来るだけ前向きに考えた。ただでさえ、野江が敗れたという現実が悠真の心に重くのしかかっているのだから。
襲撃されたのは、都の奥にある宿場だった。雨など降っていないのに、辺りは水浸しだった。宿場の壁は崩れ、事態を収拾しようと術士が人払いをしていた。
「事態は紅様が把握している。お前たちはあっちに行け!」
下緋だろう。若い術士が舞風に乗る柴を追い払おうとした。しかし、柴は何の異論もしなかった。柴が先の紅であることも、加工師であることも、赤い羽織を持っていることも、彼は知らないのだ。
「この宿帳はどこにある?」
崩れた宿の一階、雨が降ったように濡れて水が滴り落ちている。
「出ていけと言っているだろ!」
若い下緋は叫んだ。すると、中年の女が騒ぎに気付き姿を見せ、はっと目を見開いた。
「柴様……」
中年の女も下緋だろう。彼女は深く柴に頭を下げ、若い術士の背中を叩いた。
「俺が術士だと、民に知られないようにしろ」
柴は舞風の背から降り、悠真もその後に続いた。若い術士は状況が理解できないようで、中年の女が小さな声で言った。
「先の陽緋様だよ。あんたが術士になる前のね」
若い術士は唖然としていた。
「黙って、人払いをしていてくれ。先の陽緋だとか、赤を許されているとか、民から知られると厄介だ。頼むぞ」
柴は短く言い、中年の女は深く頭を下げた。