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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤い夜の戦い(4)

 当然ながら、男と女は術士である。二人は火の国の民らしく赤との相性が良い。術の力は優男や子供のほうが上だろうが、術の力は強さだけではない。色を引き出す力と、いつ、どのように、どんな力を使うのか応用力も必要となる。悠真は義藤が術を使うことを見たことがない。けれども、義藤が術を使う力にも秀でていることは分かっている。術と剣術を織り交ぜること、これが術士の戦いなのだ、と悠真は戦いを見守った。

 女が紅の石を使った。紅の石は赤い力を凝縮させ刃となり宙に浮いたまま義藤を狙った。義藤の紅の石は色を弱らせている。だからかもしれないが、義藤は紅の石の力で生み出された赤の刃を身を回転させて交わした。義藤が交わすから赤の刃が紅の部屋の壁を破壊した。その隙に男が再び刀を振り上げた。義藤は刀で受け止め、はじき返すと、次の瞬間には女が紅の石で風を巻き起こしていた。強大な風はうねりを上げ、それは交わすには不可能な力であった。

「しかたない」

義藤の声が悠真には聞こえたような気がした。義藤の紅の石は赤い色を放ち、女が作り出した風を相殺した。義藤の持つ紅の石と義藤の一色に寸分の違いもない。赤と相性の良い義藤が己の一色と同じ色に加工された紅の石の力を引き出す。元来、術士としての才能にも長けている義藤の力は、悠真が見た野江の力に追いつこうとするものであった。圧倒的な陽緋の力にいずれは並ぶだろう存在。その理由が分かった。同時に、加工の技術の高さだ。紅が赤を与えた加工師柴。悠真は柴と出会ったことはないが、その技術の高さと人柄は加工された石から感じられる。

「憎たらしい力だぜ。これが朱護頭の力かよ」

黄の石を使った子供が悪態をついていた。黄の石を使った子供も野江と同じ、圧倒的な才能の持ち主だ。

「いつでも手を貸すよ」

青の石を使った優男が言った。佐久が出来るという青の石での水人形作りをやってのける、この優男の術を使う才能は確かだ。佐久と同じ色との相性の良さと器用さの持ち主だ。二人が術の戦いで参戦すれば、義藤は勝てない。

「下がっていなさい」

女が二人を一喝し、再び石を構えた。同時に男も石を取り出した。男が不満そうに言った。

「お前たちは外に集中していろ。陽緋たちが侵入してこないようにな」

言うと、男と女は刀を構えた。


 敵はいくつも石を持っていた。色も様々であり、紅の石はじゃらじゃらと音を立てるくらい沢山の数がある。暗い闇の中で紅の石を始め、色の石が、鮮やかに輝いている。基本的に紅の石しか使用しない義藤は圧倒的に不利であった。

 男が持つ青の石が青い光を放つと、辺りを水が覆った。水が意志を持ったように動き、義藤を包み、義藤が紅の石を使うと、水の塊が内部から破裂し、義藤は開放された。義藤はとても優れた術士だ。赤い羽織の義藤と、黒服の敵は刀で切りあい、ところどころで石の力も交えていた。これが術士の戦いなのだと、悠真は目を奪われた。昼の都南と義藤の戦いは、石の力を使わない刀と刀の戦いだった。今は違う。刀と刀の衝撃の間に、間髪入れず術の力を織り交ぜていく。紅の石の赤い刃は敵を打ち抜く矢となり、紅の石の赤い盾は敵の刃を防ぐ防壁となる。一瞬の思考と判断。義藤は考えるよりも早く動いているようだった。

 唯一の救いは、青の石を使って水の人形を作った優男と、黄の石を使った子供が参戦していないことだ。義藤に挑む時間は徐々に減り、どうやら外の戦いも激化しているようであった。紅は強い。紅が持つ鮮烈な赤色を悠真は知っているから、外のことはあまり心配していなかった。


 野江は強い。歴代最強の陽緋の力は本物だ。

 都南は強い。術の力を使えず朱将となった力、義藤との手合わせで見せた力は本物だ。

 佐久は強い。身体を動かすことは極端に苦手だが、術の力は本物だ。

 赤丸。己の存在を押し殺す赤色を持つ赤丸。優れた存在のはずだ。

 悠真の目の前で戦う義藤。努力を惜しまぬ天才の力は本物のはずだ。


 刀が触れ合うと同時に、小さな火花が散った。義藤は一人で朱塗りの刀と鞘で立ち回っていた。四人の黒服の敵の目に悠真は入っていない。攻撃してこないのが証拠だろう。戦う義藤の赤い羽織が、まるで舞うようにはためく。高貴な赤がはためき、命がけの戦いなのに、とても美しい。とても美しいのは様々な色が輝き、彼らが優れた力を持っているからだ。

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