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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤い追跡者(9)

 都の横の森には不思議な力がある。だから、人は森に足を踏み入れない。開発しない。薬師が身を隠すにはもってこいの場所だ。その道を柴は知っている。

「柴は、森の中に詳しいんだな」

悠真が柴に言うと、柴はげらげらと笑った。あの森は、都合の悪いものをみんな隠してしまう。薬師も、赤影の養成所も、俺を育てた一団も。俺は、あの森で育ったようなものだ」

ならば、開発してしまえばいい。そう思うのは、悠真の考えが浅はかだからだ。柴は舞風を速足で進めながら言った。

「あの森に、不思議な力があるのは事実だ。あの森では、人の命が消える。とても容易くな。森が人を食うように、人の五感を狂わせる。開発なんて、不可能だ。あの森で生きていけるのは、術士と術士が守る者だけだ。薬師葉乃は、術士だから生きていけた。そして、源三や可那は、葉乃がいたから無事だった。それだけのことだ」

柴の過去は自然とのぞかれる。柴はこの森のどこかで育った。戦いの中で、戸籍を持たず。だから森に詳しいのだ。戸籍を持たない者は、悠真が思っていた以上に多い。隠れ術士となった、秋幸ら四人の義兄弟。そして柴。すぐれた術士には、それなりの謎がある。

「秋幸、行くぞ」

柴が振り返り、秋幸に言うと再び舞風の歩みを速めた。舞風の体がしっとりと汗ばんでいるのを感じる。


 都は混乱の中にあった。都の一角から煙が上っていた。

「また、襲撃が?」

悠真は思わず口にした。都の人々が混乱しているのが分かる。

「ああ、また起こった。今、主だった術士が収拾に回っていない。その理由、分かるな。力ある術士は、皆、紅の下へ回している。敵を追うのも、戦うのも、俺たちの役目だ」

柴は煙の上る場所へと舞風を走らせた。都の活気は、悲鳴と恐怖の叫びへと変じていた。


 都の人は求めていた。


「赤を持つ術士はいらっしゃらないのかい!」

「先の時は、陽緋様たちが見えたのに!」

「下級術士では話にならない!」


 都の人が求めるのは、紅の力。紅の権威。赤い色だ。そして、赤を託された術士がここにいる。

「柴、都の人が……」

悠真の言葉を柴が途中で遮った。

「黙っていろ。俺が赤を与えられていることも、先代の陽緋であることも、陽緋が襲撃されたことも、黙っていろ。不十分な情報は人々を混乱させるだけだ。ここで冬彦の石が使われた。悠真も秋幸もそれを心しておけ」

柴の声は落ち着いている。余裕があるのではない。余裕を持たなくてはならないことを知っているのだ。何度も思う。これが先の陽緋の力なのだと。柴が振り返り、秋幸は頷いていた。冬彦の紅の石が使われた。それは、冬彦がここで戦ったことになる。冬彦の石は、柴でない加工師が加工済みだ。加工した石は他の術士が使用することが出来ないから、ここで冬彦が戦ったことは間違いない。


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