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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤い追跡者(8)


 柴はどこか豪快な人だ。見た目もそうだが、行うことも豪快だ。もし、柴が気性の荒い性格ならば、それはとても恐ろしい術士となるだろう。


「ちょっと待てよ!」

悠真は思わず叫び、柴の背中にしがみついた。別に柴に苛立っているわけではない。柴の無謀な行動が理解できず、身を守るために柴にしがみついたのだ。

 柴は道なき道に向かって舞風を走らせた。舞風の大きな体は道なき道に動じず入っていく。木々の小枝を、蔦を、舞風は体でなぎ倒しながら進んでいく。石を飛び越えても足を取られない。それはまるで、森の中を駆ける鹿のようであった。馬の脚は細いのに、力強い。今にも折れそうな足を守っているのは、出立前に厩番と柴が舞風と絹姫の足に取り付けていた脚当てのようであった。悠真の頬や腕にも、舞風がなぎ倒した木々の破片が当たった。痛みがあったが、それ以上に振り落とされないように、しがみつくのに必死であった。

 舞風の蹄の音が響く。耳の音を風が抜け、ごうごうと音が響く。揺れは大きく、舞風のしなやかな黒い毛と触れている部分が熱を持ち始めた。舞風の息遣いが聞こえるような気がした。きっと後ろから絹姫に乗った秋幸もついてきているのだろう。この揺れの中、悠真は目を開くことも、前を向くこともできなかった。


 突然、悠真の世界が明るくなった。それが、森を抜けた証であった。


 自ら走っているわけでないのに、息が上がる。しがみつくだけで必死なのだ。明るい場所に出ると、柴は舞風をゆっくりと歩かせ始めた。柴の手綱に従い、舞風は速さを緩める。抜け出た場所は都の端だった。森に接している場所。森を切り開くことをしないから、都はこれ以上森に進出してこない。

「秋幸、大丈夫か!」

柴が振り返り、悠真が耳を塞ぎたくなるような大きな声で秋幸を呼んだ。

「大丈夫です」

秋幸は息を切らし、そっと絹姫の首を叩いた。

「それにしても、舞風も絹姫も普通の馬じゃないみたいです。あんなこと、普通の馬じゃできません」

秋幸の言葉に、柴はげらげらと笑った。

「当然だろ、舞風は俺の愛馬、そして絹姫は義藤の愛馬。俺たちを支えてくれる仲間だ。多少の無茶には答えてくれる。当然だ。舞風も、絹姫も、基本能力が違う」

柴は誇らしげに舞風の首を叩いていた。柴の動作は豪快だ。しかし、人間よりも遥かに大きな馬にとって、人の力など大した力でないのかもしれない。案の定、柴が豪快に舞風の首を叩こうと、舞風は平然としているのだ。

「ほら、都へ戻ってきた」

柴はゆっくりと言った。


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