赤い追跡者(7)
柴は何かの目的を持って舞風を走らせていた。どこかへ向かい、森の中を進んでいるのだ。この森は都の近くなのに、人が足を踏み入れることはない。そして、都の近くなのに開発は進まない。それは、森の深さが人の五感を狂わせること、そして昔から開発してはならないという暗黙の規則があるのだと、佐久が言っていた。信心深い人は、この森に足を踏み入れたりしない。この森には神が住むのだと。
――もしかしたら、かつての紅がこの森に何かを隠すために、そんな決まりを作ったのかもしれないね。
佐久がそんなことを言っていた。
事実、この森には赤影の生きる場所が隠されていた。そして、薬師も。黙って足を踏み入れると、二度と出ることが出来ない。そう言い伝えられるほど、この森は深い。そんな森の中を、柴は迷いもなく進む。
「どうした、紅」
森の中を走らせていると、一つ柴が口にした。また、紫の石だ。紫の石が柴に紅の言葉を伝えているのだ。
「冬彦が?分かった、俺が向かう。お前たちは、紅城から動くな。なに、俺がいる。そして、秋幸だって戦える。何も心配するな」
柴は落ち着いている。激高することも、慌てることもない。落ち着き、大きな動作で舞風を停めると、舞風の向きを変えて秋幸に言った。
「秋幸、冬彦の紅の石が都で使われた。何かあったに違にない。俺たちは、そちらへ向かう。少し急ぐぞ。秋幸、絹姫を信じろ。悠真は俺にしっかり掴まっていろ。ここからなら、少し近道が出来る。――舞風、少し頑張ってくれな」
柴は舞風の首を軽くたたくと、勢い良く舞風を走らせ始めた。