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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤い追跡者(3)

悠真は何も知らなかった。学校で習うが、この手の話の時は興味が無くて、眠っていたのだ。

「へえ、知らなかった。でも、なんで矢守結びなんて……」

悠真が秋幸に尋ねると、離れたところで柴がげらげらと大きく笑った。

「悠真、こんな話、火の国の子供でも知っているぞ」

柴は笑い、秋幸は呆れていた。悠真は、自分がいかに色に対して無知であったのかを知った。火の国は赤の色神によって支えられている。赤の色神が生み出す、紅の石によってさせられている。だから、火の国では赤を祀っている。その一つ一つに意味があるのに、悠真はその意味に興味を抱いていなかったのだ。先人たちが守ってきた伝統も、紅を神として祀るその文化も、悠真にとって興味を抱くことではなかったのだ。赤に守られているこの国で生きているのに、何も知らない。それは、とても恥ずかしいことのように思えた。自分の生きる生活の基盤を知らないようなものなのだから。

 秋幸は小さく笑って話し始めた。

「矢守結びという名の由来は神の時代から始まる。はるか昔、どの国も色を有していなかった。色神たちは、己が国を選んだ。赤の色神は神の世界から矢を放った。赤い紐が結ぶばれた矢は、火の国の大地に刺さり、赤の色神は火の国に舞い降りた。すべては矢から始まった。だから杜では、矢を守るための封印の結びをする。それが、矢守結びだ」

知らなかった。悠真は何も知らなかった。げらげらと笑った柴が秋幸に続けた。

「だが、その話を知らない者も多い。人の心か神から離れる。この国が赤の色神紅に支えられていることを皆知っていて、皆が赤い色を高貴な色として崇めるが、真に紅のために戦う者はどれほどいるか。紅が命を落としても、次なる紅が現れるから、人はあまり気にしない。いつの時代も、人間は俗世で生きているものさ。俺だって、先代紅と出会うまでは、色神に興味もなかったし、次の色神が現れるなら今の紅の命に価値があるとは思えなかった。価値があるのは紅の命でなく、紅が生み出す紅の石なのだから。誰が紅であっても、石が生み出されればそれでいい。それが、官府的な考えさ。――悠真、お前だってそうだったんじゃないのか?」

柴に言われて、悠真は息を呑んだ。柴の言葉は真実だった。図星だった。悠真は、赤の色神紅を表面では敬っていても、真に敬っていなかった。柴はげらげらと笑った。

「それが普通だ、悠真。だからな、色神を殺そうとする奴は、色神のことを知らないんだ。俺は意識を見るのに長けている。その俺が見るんだ。紅の色は深く強く鮮烈に輝く。紅以上に、鮮烈な赤を、俺は見たことがない。きっと、野江を襲撃した奴も、何も知らないだけなのさ。何も知らないから、正しい道が分からない」

柴は大きな動作で舞風の背に跨った。柴は何かを知っている。それは間違いないだろう。だが、悠真に柴を詮索する権利はない。柴は悠真よりも長く紅のために戦い、紅を支え続けた人なのだ。もし、柴が紅を裏切るようなことがあれば、それは今じゃない。裏切る機会なら、いくらでもあったのだ。



――しかし


そう思えば、思うほど、消えた佐久のことが悠真の心に過る。佐久はなぜ消えたのか。本当に紅を裏切ったのか。いつもと変わらない穏やかな空気の流れる紅城の内部に、佐久が消えたことによる不協和音が響き渡っていた。表面では見えない。聞こえない。それでも、紅城の内部は、赤の仲間の絆は、見えないところで瓦解を始めているのだ。


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