赤い追跡者(2)
この状況で、柴は紅の要だ。その柴が何かを隠している。それは、嫌な気分だった。柴が先代紅を支え、今の紅を守り、野江や都南、佐久らを導いてきたのは事実だ。その柴が隠し事をしている。もし、野江を襲撃した敵の正体を知っているのなら、それは柴の紅への裏切り行為。見逃すことは出来ない。
「何を隠しているんだ?」
悠真は柴に問うた。しかし、柴は大きく笑っただけだ。
「俺の一色を覗いたか?だがな、お前の目は未熟だ。この言葉の意味分かるか?」
柴の大きさは変らない。柴は大きい。
「人は誰にでも知られたくない過去がある。それは、もちろん俺にも当てはまる。この俺も、知られたくない過去がある。言っただろ、俺はかつて戸籍の無い身。秋幸と対して変わらない。悠真のことを小猿だというが、俺は悠真以上に劣悪な環境生まれだ。その環境で育った。先代の紅と赤丸に救い出されるまでな。それ以上、探るな」
柴は大きい。その大きさが強さだ。大きさが強さとなり、悠真を萎縮させた。そんな悠真の肩を叩いたのは秋幸だった。
「矢守結びは、色神を祀る杜で使われる結び方だ。悠真の村にもあっただろ。その戸結びの仕方、鳥居の結び、そのすべてが矢守結びと決まっている。これは、難解な結び方で、ほどけにくい。その上、結び目が美しいだろ。神に捧ぐに相応しい。その結びを暇つぶしにする。それは、確かに高尚な者だ。この結びは火の国にしか存在しない。火の国で結ばれる神へ捧げる結び方を、火の国で結ぶ。俺は、敵が紅を憎んで狙っているようには思えないよ」
――矢守結び
秋幸も柴も結び目を見ただけで、そのように断言する。変わった結び目としか思えない。