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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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囚われの緋色(16)

 喜ぶべきであったのだ。兄はこの家から自由になれた。この家から自由になった兄は、これから何でもできるのだ。

(野江、兄は都へ行く。待っていてくれるかい?兄は、都で生きる道を作り、野江を迎えに来るからね)

兄の温もりが忘れられない。

(兄様、あたくしは、これからどうなるの?)

野江は不安だったのだ。兄が不在となると、この広い屋敷で野江の味方は誰もいない。野江は、この部屋に閉じ込められて、何も考えず、ただ、ただ日々を過ごすのだ。父が望むように、野江が名家の嫁に行くまでの間、野江はここに閉じ込められる。日に焼けないように、転んで傷を作らないように、肌が荒れないように、髪が傷まないように、野江はここに閉じ込められる。過保護という牢獄の中に囚われるのだ。

 兄が遠ざかる。優しかった兄が遠ざかる。

(兄様)

野江は叫んだ。遠ざかる兄を追いかけようと、野江は走った。思い着物を引きずり、走った。

(兄様)

声の限り叫んだ。兄の姿は見えない。風が邪魔して前へ進むことを阻むのだ。風の中で兄の声が響く。


(野江、こっちに来ちゃいけない。野江は、赤の術士。陽緋。もう、父の人形じゃないんだよ)


兄の声が響く。野江は泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、辛かった。

(野江、野江には鶴巳がいる。兄がいなくても、鶴巳がいる。だから野江、紅を守ってくれないかい?)

野江は叫んだ。

(兄様!)

野江の叫びは届かない。

(野江、生きるんだよ。何があっても、紅と鶴巳と共に生きるんだよ)

兄の声は強い。こんなに強い声を聴いたことがない。

(兄様、今、どこにいるの?)

野江は尋ねた。しかし、兄の返事はない。

(兄様)

(兄様)

野江は何度も呼び続けた。優しい兄を探して。

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