囚われの緋色(14)
アグノはゆっくりと野江に近づいてきた。アグノの手がゆっくりと野江に触れる。痺れた肩と、熱を持ったように拍動する頭部に。アグノが右手を動かそうとすると、激痛が野江を襲い、野江は思わず顔をゆがめた。
「雪の国でないので、詳しい検査は出来ませんが、肩関節が外れたのでしょう。衝撃で鎖骨も骨折しているようです。――眩暈がしませんか?吐き気は?」
アグノは野江に尋ね、野江は頷いた。
「吐き気は無いわ。ただ、体を起こそうとすると視界が急に暗くなるような眩暈があるわ」
野江が言うと、アグノは小箱から白い布を取り出して、熱を持った野江の頭部を押さえた。
「少し、血を流し過ぎたのでしょう。脳へのダメージは、火の国で検査することは出来ませんが、とりあえず現時点では問題ないでしょう。ソルトが助かれば、白の石があります。剣を握る御身であるならば、使うべきでしょう」
言うと、アグノは小箱を開いた。
「頭部は血管が多い。ここで主要血管を傷つけているのなら、当然出血量も多くなる。あなたは、女性だ。体が持たない。まず、止血をします。少し、休んでください」
アグノが言うと、アグノの指が野江の首に触れた。首の横を押さえる。不思議だ。突然、野江の世界が暗くなった。眠りに落ちていくように、野江の世界は暗闇に変じていった。