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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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囚われの緋色(11)

 戻ってきた敵の男は、木箱を持っていた。その木箱を牢の中へと入れると、言い残した言葉を思い出したかのうように言った。

「俺は今から、依頼人の要望通りに戦いに行く。依頼を果たせば、あんたたちは解放だ」

すると、異邦人の男は牢の柵にしがみついて怒鳴った。

「**********!」

すると、敵の男は笑った。

「何と言われても、依頼人からの依頼は果たす。それが、どれほど残酷なことであっても、その仕事があるから俺は生きて、その仕事がなければ、俺の存在価値なんて消えてしまうのだから」

よくよく見れば、敵の男の側頭部には傷跡があった。鍛え抜かれた体は、獰猛な獣のよう。術を使う力同様、身体機能も高いに違いない。鍛錬の賜物だ。もし、正規の赤の術士ならば、術士の中枢に近い力を持つ。都南も獣のようだが、都南とも違う。都南は、術士として紅城に招かれてからはまっとうな道を歩んできた。しかし、間違いなく敵の男は、これまでの半生を傭兵としての戦いの中に置いていたのだ。傭兵は、術士とも違う。ただ、戦うために存在する。使える紅もおらず、ただ、依頼を果たすために戦う。時に正規の術士と戦い、命を落とすこともあるだろう。それでも戦う。

「********!」

異邦人の叫びは虚しい。ここに雪の国の男がいる。敵の男は紅に手を出さないと言う。そして野江たちにも危害を加えないという。ならば、狙いを想像するのは容易い。依頼を果たすという言葉に、過敏に反応する異邦人。雪の国の男。狙いは……


――白の色神


 白の色神が火の国に来訪していることは、紅とクロウの話からして間違いない。敵の狙いは、白の色神だ。

「********!」

異邦人の叫びも虚しく、敵の男は立ち去った。白の色神は狙われる。この、異邦人は白の色神を守っていた護衛というところだろうか。白の色神が何者なのか、なぜ火の国に足を運んだのか、野江は知らない。ただ、異邦人の叫びの理由は分かる。もし、紅が狙われたら。その時、自分が無力だったら。


――紅を助けて!


 野江は叫ぶだろう。今、こんなにも無力なのに、野江は叫ぶだろう。色神のことを知っているから、色神が必死に生きていることを知っているから、色神の強さ、優しさ、弱さを知っているから、野江は紅を守る。きっと、異邦人も同じなのだ。白の色神を守るために、戦い、そして傷つき、無力さを感じる。

「********」

異邦人の言葉を解することは出来ない。なのに、その痛みが分かる。



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