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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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囚われの緋色(9)

 どれほどの時間がたったのか、野江は分からなかった。何とか、紅に無事なことを伝えたかったが、その方法もない。紅が心を痛めているのなら、その痛みを取り去りたいが、野江にその力はない。

 その時、人の気配を野江は感じた。ここは薄暗い場所。牢だということは分かる。しかし、壁は人の手で作られたものでない。明かり取りの窓もないことから、ここが洞窟を牢へとつくりかえた場所だということは分かる。少し湿り気を帯びた石の床と、壁を伝う水音がそれを示していた。

 人の気配は暗闇の先から近づいてくる。野江は鶴巳の腕に力が入ったことを感じた。痛いほど、鶴巳の腕が野江を締めつけているのだ。こんな状況なのに、無骨な鶴巳の腕がたくましく感じるのが不思議だった。

 近づいてくる人の気配は、小さな灯りと共に大きくなった。野江は首を動かし、近づいてきたのが襲撃してきた人物だということを理解した。野江より少し年齢が上だろう男は、野江を襲い、野江の腕を踏みつけていた男だ。男は大柄な男を引きずるように歩いていた。大柄な男は、頭から麻袋をかぶされていた。足を痛めているのか、大柄な男は足を引きずっていた。

 野江は顔を起こすことが出来なかった。鶴巳の膝に頭を乗せて。首だけを動かしていた。近づいてくる男は敵だ。野江は敵の接近に警戒しようとしたが、体が動かなかった。野江の術士としての人生は長い。窮地の一つや二つ、潜り抜けている。しかし、今回は野江自身が焦るほどの危機であった。

「おっと、陽緋殿。目が覚めたか?どうか、その護衛を大人しくさせておいてくれよ。暴れられちゃたまらない。これ以上、危害を加えるつもりはないが、背に腹は代えられぬからな。術の使えぬ男に、術で攻撃することは避けたいからな」

敵の男は言うと、牢の鍵に手をかけた。

「陽緋殿、護衛を大人しくしてくれ」

敵の男が言い、野江は鶴巳を見上げた。

「鶴巳、大丈夫だから、じっとしていなさい」

野江は鶴巳に言うと、鶴巳は強い目で敵の男を睨みつけたまま頷いた。

「話が分かってもらって良かった。同室者だ」

男は言うと、麻袋の袋を頭からかぶせられた男に言った。

「あんた、医の心得はあるか?あんたの国の誇りだろ」

麻袋を被せられた男は答えた。

「*********」

しかし、何を言っているのか分からない。間違いない。麻袋を被せられた男は、異国の者だ。鎖国をしている火の国では、お目にかかることが出来ない異邦人だ。

「そこの陽緋を救え」

敵の男は、異邦人に言った。攻撃しておいて、救えなど理解できない。敵の男は、何を狙って野江を攻撃し、何を目的としているのか。何が目的なのか。何が狙いなのか。紅の命を奪うのが目的なら、陽緋野江を生かすはずがない。


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