囚われの緋色(7)
体が痛んだ。首を動かしたが、世界はあまり変わらない。痺れた右手も、熱を持つ頭部も、何も変わらない。
「野江」
懐かしい声がして、野江はそちらを見た。そこには、鶴巳がいた。地に座る鶴巳が膝を折り、野江を抱きしめていた。野江が感じた温もりは、鶴巳の温もりだったのだ。
よかった、と野江は思った。野江は敗れた。鶴巳に何かがあっても、野江は何もできないのだから、今現時点で、鶴巳が無事なことに安堵したのだ。鶴巳のしっかりとした腕の中にいると、野江は大きな力に守られているような気持ちがして安心するのだ。
「良かった、鶴巳、無事で……」
野江が言いかけると、鶴巳の腕の力が一層と強くなった。
鶴巳の腕は野江を思い出の世界に導く。紅城に足を運ぶ前、鶴巳は野江の手を握り、手を引いてくれた。その頃の野江は、歩くのさえままならないほど体が弱っていたのだから。その時の鶴巳の手と、今の手は違う。昔と変わらないようで、今あるのは無骨な男の手だった。いつも近くにいるようで、身体的に接近することはあまりない。ここまで近づくと、今まで気が付かなかったことに気が付く。温かい鶴巳の体は、骨ばって固かった。体の幅も広く、鶴巳が異性なのだと教えられる。
「力が欲しい」
ふと、小さく鶴巳の声が響いた。それは鶴巳の心の声のようだった。