囚われの緋色(4)
夢と現実の挟間に囚われたのだ。目覚めなくてはならない。しかし、野江は闇の中に落ちた。
野江は暗い所にいた。全身が重くて目が開かない。自分の体なのに、自分の体でない。そのように思えるのだ。体は冷えて冷たい。しかし、野江の体は温かく、優しく、柔らかなものに包まれていた。暗闇の世界で、この温もりは異質だ。しかし、野江はこの温もりをどこかで感じたことがあったのだ。どこで経験したのか、まったく思い出せないのだが。目が開かず、体は動かず、野江は重く自由の利かない体で思考だけを巡らせた。
何かが起こった。
野江は何が起こったのか理解できなかった。全身が重く動かない。しかし、頭部が熱を持ったように熱く脈打ち、右手は感覚が無くて痺れていた。痛むと言えば、体のあちらこちらが痛む。しかし、野江は陽緋だ。戦いを余儀なくされる陽緋だ。戦いの上で強力な術を使う術士である野江は、とても有利な立場にある。しかし、当然ながら傷つくこともある。傷つくことも多いと言える。だから野江は、そのあたりの女性よりも己が痛みに強いことを自負していた。そもそも、女は我慢強いのだ。忍耐力があり、痛みにも強い。そのようなことを、都南に言うと彼は激怒し、佐久に言うと佐久は苦笑するのだろうけれど。女であることは、戦う上では不利な面が多い。男である義藤でさえ、腕力で都南に敵わず、そのため剣術で野江に一歩後れを取る。女である野江は、義藤にさえ敵わない。腕力という一点では、野江は明らかに不利だ。だが、野江には技術があった。柔軟さがあった。だから、簡単には負けはしない。
野江が歴代最強の陽緋と呼ばれるのは、一重に術の力の強さのおかげだ。だが、術の強さだけでは陽緋として生きていけない。野江は、生まれ持っての色の力を引き出す才能以上に、努力をしたのだ。努力を惜しまぬ天才は、義藤だけでない。いずれ義藤に抜かれることを知っていても、まだ負けはしない。野江は、幾多の修羅場を潜り抜け、今も生きているのだから。