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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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囚われの緋色(3)


野江の目から涙が零れた。涙は熱を持ち、赤い光を放つ。己が何者なのか。この赤が教えてくれる。赤を纏う理由。それは、野江が赤を守る者だから。赤を守り、赤のために戦うから。野江は父の人形ではない。野江は、野江として歩まなくてはならないのだ。赤の術士として、赤を守る緋色として、陽緋として。


――あたくしは赤の術士。


野江の心は赤に染まる。野江はようやく思い出した。己は人形でない。赤の術士なのだ。陽緋として戦ってきたのだ。これは、過去だ。野江の幼少期の記憶に過ぎない。野江は陽緋。無理に嫁がされることもなければ、美しさを強要されることもない。仕草を注意されることもない。野江は自由だ。そして、自由だからこそ、傷つく。


(父は野江を守っておるのじゃぞ。父は野江のためを思うてここまで来たのじゃぞ)


父の声が響く。野江を閉じ込めようと、この部屋に閉じ込めようとしている。野江は立ち上がった。野江の体は軽い。閉ざされた障子を開くため、野江は足を進めた。赤い羽織がはためき、赤い羽織が煌めき、野江の存在意義を証明する。ありのままの野江を必要としてくれる人たちがいるのだ。


 鮮やかな緑の畳の上を歩く。白い足袋が畳をこする。足を進めて、障子にかける手は少し荒れている。刀を握るから豆もある。爪が短いのは、割れるのを防ぐためだ。細くしなやかだった手は、乾燥している。当然だ、野江は陽緋なのだ。紅の石を使い、刀を持ち、戦う存在なのだ。その手で障子を開こうとしたとき、再び声が響いた。


(父の元にいろ、野江)


声と同時に緑の畳がうごめき、隙間から黒い色が溢れ出た。そして野江は暗闇に囚われたのだ。


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