白の逃亡者(16)
「ほらほら、体をふきなさい。冬彦、風呂に火をつけて自分で入りなさい。冬彦の姫様は、私が預かるよ」
吉枝が生き生きと声を上げて戻ってきた。吉枝は毛のないタオルを持ってくると、それを冬彦に掛けた。
「火種は火鉢にいれてあるから、好きにお使い。薪は風呂場の横だよ。あとで、乾いた着物を持って行ってあげるからね」
言われて、冬彦は一度ソルトを見た。
「冬彦の姫様は、私が預かるからね」
吉枝はそっとソルトの頭に手を乗せた。
「あんたのような、野蛮な子供より、私の方が安心だよ」
言うと、吉枝は冬彦の背中を容赦なく叩いた。
「吉枝ばあちゃん。あとは任せるよ」
冬彦は濡れた着物を脱ぎ棄てると、下着姿になって建物の中に入っていった。
「まったく、あの子は……」
吉枝は冬彦を見送ると、そっとソルトに毛のないタオルをかけた。
「大丈夫、安心なさい。きつかったね、あの子は必死だから、周りが見えなくても許してあげてね。火鉢に火を入れておいてあげたから、温もりなさい。この婆を信じてちょうだいね」
ソルトの世界は歪んでいた。まるで回転しているようであった。ソルトの限界はとっくに超えていたのだ。
出会ったときに比べて、吉枝ばあちゃんが若い口調になっているような気がします(^_^;)冬彦と再会して、気持ちが若返ったということで……。次の野江の話へと続きます。