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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤い夜の戦い(1)

 時は経ち、宵は深まった。義藤は身動き一つとらず一点を凝視し、悠真は腰や尻が痛くなって何度も姿勢を直した。危険な状況だと分かっていても、悠真は強い睡魔に襲われた。目を開こうと、意識しても自然と瞼が閉じていく。世界がゆっくりと沈み、頭の重みで顔が沈んでいく。眠っては駄目だ。眠っては駄目だ。自分に言い聞かせて、必死になって目をこじ開けて、必死になって頭を上げて、悠真は起きようと全力を尽くした。悠真の必死な抵抗も義藤は見抜いているのだ。だから義藤は優しい。

「眠ってもかまわない。案ずるな。俺が起きている。これは俺の仕事だからな」

義藤が廊下の先を見つめたまま言った。

「疲れただろ。昨夜からずっとな。見ず知らずの紅城に来て、初対面の人間と会って緊張の糸を張り続けて、疲れるのは当然のこと。お前はまだ、術士でないのだから」

義藤が言った。言われる前から悠真は限界で、泣き疲れたのが正直なところだ。村が崩壊したのは昨夜のことで、野江と出会い紅城に足を運んだのは今朝のことなのに遥か昔のことのように感じる。今朝まで、紅を尊敬していた。村の崩壊の真実を知ってからは、紅を憎んだ。そして今は……。悠真はゆっくりと目を閉じた。夢は見たくなかった。見る夢は悪夢に違いない。平和な故郷の情景ならば、なおのこと悪夢だ。忘れてしまうのだがいい。何もかも忘れて、無の空間に落ちたかった。落ちて、落ちて、悠真は眠りに落ちていく。夢の中は黒い闇。


「起きろ!」

どのくらいの時間が経っただろうか。義藤の大きな声で悠真は目を開いた。眠っていた身体は硬直して上手く動かず、廊下で座って眠っていた身体の手足は冷えて冷たい。それでも、義藤の鬼気迫る声で、悠真は慌てて目を開いた。義藤は片膝を立てて中腰になり、刀を柄から抜きかけていた。

「来るぞ」

はらりと義藤の髪がなびいた。悠真が首にかけた紅の石は赤い光を放ち、義藤の顔を赤く照らしていた。

「石が……」

悠真が言うと、義藤は悠真に目を向けることなく答えた。

「反響だ。強大な力を放つ色の石が、力を放ちながらこちらへ近づいてきている。気をつけろ。敵は、野江の力を跳ね返すほどの力を持つ、紅が把握していない術士だ。隠れ術士の中でも、小緋や中緋ほどの力を持つ。危険な存在だ。官府に雇われているのなら、官府の経済力を背景に持つ。もし、ここで術士を殺しても何にもならない。とかげの尻尾きりになるだけだからな。官府は知らぬ存ぜぬでしらをきるんだ」

ゆるりと義藤が刀を抜いた。朱塗りの鞘から抜かれた白刃が小さな灯りを眩しく反射していた。その直後、外で赤い光が輝き、強い力で壁が砕けた。

 悠真は動けなかった。このまま死ぬ。悠真が身動きひとつ取れないほどの時間。その間に、義藤は身体をひねらせ立ち上がり、悠真が頭で考えるよりも先に、義藤が赤い羽織を広げ、悠真の上に覆いかぶさり庇ってくれた。小さな木の屑が、ぱらぱらと悠真の上に落ちてきた。義藤の微かな重みと息遣い、そして義藤が持った抜き身の刃が悠真の顔の横にある。

「義藤?」

悠真は身体の上に義藤の重みを感じた。当然の事ように、義藤は身を呈して悠真を守った。悠真は復讐するつもりだ。なのに、どのようにすれば良いのか分からない。強大な力をもち、石を操る敵に対抗する術が分からない。義藤の重みが、悠真の不安を掻きたてた。悠真と義藤は同じ人間なのに、力は同じでない。

「隠れていろ」

耳元で義藤の声が低く響き、重みは急に消え去った。悠真は隠れるしか出来ない。息を殺し、身を隠し、義藤と敵の戦いを見つめるしか出来ない。

――何が復讐だ。

悠真はそう思った。紅の石の力で世界が赤く輝き、暗い夜に赤い明かりがともされていた。赤い空。赤い夜。赤い風。赤い夜の戦いが悠真の目の前で始まった。

 


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