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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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白の逃亡者(11)

――ソルト、気を付けてください。


白の声が遠くで響いた。


――私は色だから、あなたを救うことが出来ません。


白は色だ。だから、人の世で生きるソルトに直接的な干渉を行うことが出来ない。そんな白も、ソルトを思ってくれている。いつもは、鬱陶しいと思う白の言葉も、ソルトを支える一つの柱となった。人から命を必要とされないことが、存在を否定されることがこれほどまでに苦しいこととは知らなかった。そして、他人がこれほどまでに温かいとは、知らなかった。


――生きてください。


白の言葉が、ソルトの中で響いた。



 冬彦は都の雑踏の中、ソルトを背負って都を進んだ。

「ここで良いか」

冬彦が呟くから、ソルトは顔を上げて布の下から景色を見た。そこは、多く汚れた人が肌を寄せ合うように座っていた。並んだ建物も古くて、傾いている。肌を寄せ合って座っている人の中には、病んだ人もいた。道に蓆を惹いて横たわっている。

 座る人は皆、汚れていたが、その中で一人の年老いた女が粥を配っていた。年老いた女は、貧相な着物をまとい、まがった腰をかがめていた。それでも凛とした姿勢からは品格を感じられた。だから、老婆と呼ぶには障りがある。貧しい身なりをしていても、品のある年老いた女だ。

「吉枝ばあちゃん」

冬彦は、年老いた女に声をかけた。年老いた女は、はっとしたように冬彦を見て微笑んだ。ソルトはその様子をじっと見ていた。

「冬彦じゃないかい。今までどこに行っていたんじゃ?随分と姿を見ないから、心配したんじゃぞ」

年老いた女は温かく微笑んでいた。そして、彼女は布で姿を隠したソルトに目を向けた。

「冬彦、何があったのじゃ?」

年老いた女はそっと冬彦に歩み寄ったが、冬彦は一歩後ろへ後ずさった。冬彦も警戒している。彼女に助けを求めているが、それでも冬彦は警戒しているのだ。すると、老婆は静かに笑った。

「まるで、昔に戻ったようじゃ。あんたは他人を信じちゃいない。ようやく、私を信じてくれたと思いきや、突然姿を消して、また元通り。かわいい猫ちゃんじゃこと」

冬彦は一歩下がって言った。

「もう死んだかと思っていたよ」

冬彦が叩いた憎まれ口に、年老いたは笑った。

「冬彦の口の悪さは変っちゃいないね。どうしたんだい?山の仲間に何かあったのかい?あんたが私を頼るなんて、そりゃあよっぽどのことじゃろうな」

年老いたは年齢の貫録があった。皺のある顔には苦労の後もある。そして、老婆は続けた。

「私は世間から離れた身。なんでもお言いなせえ」

年老いた女は言うと、そっと物陰へと足を進めた。人目を避けている冬彦の行動を知っていようであった。


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