白の逃亡者(8)
生き残るには、誰かに助けを求めなくてはならない。ソルト自身が武術に優れ、己の身を己で守ることが出来れば最も良いのだが、残念なことにソルトにその力はない。ソルトは日常生活でさえ他者の力を必要とするほどなのだから。こんなソルトが火の国で生き残る道は一つ。冬彦が言った道だ。この火の国で最も力を持ち、術士に対抗できる術士を持つ存在。赤の色神紅に保護を求めるのだ。赤の色神は力と術士を持つ。赤の術士に守ってもらうしかないのだ。
「紅は助けてくれる。紅はそういう人だから」
冬彦は言った。
冬彦が紅を信頼していることはソルトも知っている。冬彦が言うのだ。真にソルトが助けを求めれば、紅はソルトを助けてくれるだろう。紅に命じられて、赤の術士が紅を守ってくれるだろう。
同時にソルトは思い出した。襲撃されたときの恐怖を思い出した。アグノを残したとき、アグノがソルトのために死を覚悟した時、ソルトはとても恐ろしかった。恐ろしいのは、自分の命のために、誰かが傷つき、死ぬことだ。
襲撃してきた者の狙いはソルトだ。狙いがソルトということは、火の国の赤の色神を狙っていないということだ。
「私は死ねない」
ソルトは自らに言い聞かせた。それは、アグノが教えてくれたソルト自身の命の価値だ。この命には価値がある。だから生きなくてはならない。誰を犠牲にしても、生きなくてはならない。しかし、ソルトは不必要な人を巻き込みたくないのだ。
「分かっている、色神は生きなくちゃいけない」
冬彦はソルトに言った。
「冬彦、お願いがあるの」
ソルトは続けた。
「私を、守ってちょうだい」
ソルトは弱い色神だ。誰かに守ってもらわなくてはならない。だから頼むのだ。冬彦に守ってほしいと、頼むのだ。
「俺はアグノと約束した」
冬彦は、ゆっくりとした口調で言った。それが、嬉しかった。