表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
454/785

白の逃亡者(7)


 目が覚めると、ソルトは下町の建物と建物の間にいた。ソルトは冬彦に抱きしめられていた。


 ここにいる。

 生きている。


「アグノ」

ソルトは辺りを見渡した。いつも近くにいてくれるアグノ。その姿が見えなかった。

「アグノ……」

ソルトはアグノを呼んだ。なのに、アグノの返事はない。抱きしめてくれる腕は、アグノのように大きくない。アグノでない。

「ねえ、アグノは?アグノは?」

ソルトは冬彦にしがみついた。しかし、冬彦は何も言わない。何も言わず、ただ俯くだけだ。

「ねえ、冬彦」

ソルトが冬彦に迫ると、彼は小さく、吐き出すようにポツリ、ポツリと言った。

「俺にもっと力があれば……」

冬彦は言った。それで、現実は伝えられた。アグノはソルトたちを逃がすために残ったのだ。退路を保ち、そして……。

 ソルトの目から自然と涙が零れた。アグノはソルトにとって大きな存在だ。彼を欠いて、ソルトは生きていけない。実験体として医学院で生きた苦しい日々。その日々の中、博士だったアグノはいつもソルトを助けてくれた。アグノの救いがなければ、ソルトは実験に耐えることが出来ず、命を落としていただろう。ソルトを救いすぎて、博士だったはずのアグノは、実験体へとランクを下げられてしまった。アグノはソルトの守護者だったのだ。

「どうする?」

冬彦が小さく言った。何を尋ねられたのか理解できず、ソルトは言葉を詰まらせた。

「俺一人で、ソルトを守り切れるか分からない。紅に助けを求めるのも一つの道だ」

冬彦が何を言いたいのか、ソルトは理解できた。ソルトの命が狙われているのは明白だ。このままでは、ソルトは殺されるのを待つだけだ。異国の火の国ということが、事態を複雑にしている。もし、雪の国であれば、ソルトに絶対的な信仰を抱く民がソルトを守るだろう。彼らは、色神がかつては普通の人間だと知らないのだから。――だが、ここは火の国。ソルトを守る者はいない。ただ、殺されるのを待つだけだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ