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白の逃亡者(3)
「冬彦」
ある時、アグノが冬彦を呼んだ。冬彦は礼儀に欠ける。姿勢もよくない。そんな冬彦に、アグノは姿勢を正して言ったのだ。
「なんだよ」
冬彦は困惑していた。その中でアグノは優しく微笑み、告げたのだ。
「頼みがあります。私は術士としてあまり強い部類ではありません。以前の団子屋の騒動の時に、冬彦に助けてもらったのがその証拠です。だから、私は冬彦に頼みます。どうか、私の身に何かが起こったとき、ソルトを守るのに力を貸していただけないでしょうか」
アグノは冬彦に深く頭を下げた。ソルトは驚いた。アグノが何を言い出したのか、一瞬理解に苦しんだのだ。そして、冬彦は困ったように笑った。
「ふざけるなよ。俺は赤の術士だぞ」
冬彦は言ったが、アグノは冬彦に深く頭を下げていた。
「あのな、だから俺は……」
冬彦は言いかけて、動きを止めた。そして、突然立ち上がった。
「冬彦?」
アグノも何が起こったのか分かっていない。もちろん、それはソルトも同じだ。緊迫した空気がそこにあった。